前回、学級規模の縮小が児童生徒の学力を向上させる効果を持つことを示したが、そのことについて分析を進めた結果、以下の2点が追加的に明らかとなっている。
1つ目は、学級規模を大胆に縮小したときに学力向上の効果が大きくなるという点である。学級規模を10人縮小するといっても、40人を30人にする場合と、30人を20人にする場合とでは効果の大きさが異なる。筆者の分析結果によれば、後者の効果は前者を大きく上回ることが示されている。
2つ目は、少人数学級の学力向上効果が学校の特徴によって異なるという点である。公立小・中学校は、主にその立地によって、在籍する児童生徒の社会経済的状況(SES)が大きく異なる。SESは、保護者の学歴や職業、世帯収入などによって評価される。SESの高低は児童生徒の学力格差だけでなく、近年では学校外での習い事などさまざまな面での体験格差をもたらしていることが知られている。筆者らの分析によれば、少人数学級による学力向上効果が大きいのは、在籍する児童生徒の平均SESが低い学校であることが示されている。この分析結果は、少人数学級政策が学力面における教育格差の縮小に寄与する可能性を示していると解釈できる。
ここまで、少人数学級がもたらす学力向上効果について見てきた。因果推論の手法を適用した分析の結果は、以下の2点に要約される。
①学級規模の縮小は児童生徒の学力を向上させる
②少人数学級政策はSESの高低に起因する学力格差を縮小する可能性がある。
①の学力向上効果であるが、学級規模を10人縮小したときの平均的な効果の大きさは、偏差値換算で+0.9前後であった。10人縮小しても偏差値換算で1に満たない程度の効果しかないのである。さらに言えば、学級編制の標準を5人縮小した今般の小学校35人学級政策は、筆者の試算によれば、実際に編制される学級の規模では平均で2~3人しか縮小しない。2~3人しか縮小しないのであれば効果は微々たるものではないか、と思われる読者も多いかもしれない。
筆者は、中学校時代の学業成績と卒業後の収入をひも付けたデータを入手し、学業成績の向上が卒業後の収入にどの程度の影響を及ぼすかを調べた。そして、学級規模縮小による学力向上効果が、卒業後にどの程度の収入増をもたらすかを試算した。その結果、微々たるものに見える学力向上効果であっても、卒業後の長期間にわたって収入を増加させることが判明したのである。