学校の子どもからは慕われ、保護者からの評判は上々。でも、「わが子」への子育てというと…。
学校の先生は、教育目標の達成に向けて多くの教育方法や教育技術を身に付けています。また、多様な家庭環境で育つ子どもたちから一人一人の悩みを上手に聞き取り、その子の悩みを解決するためにアドバイスをしています。子どもが笑顔になるように、子どもが成長できるように、全身全霊で教師業に取り組んでいて、本当に尊い仕事をしています。
ところが、そんな能力をもっているはずの先生が、「ママ」「パパ」になると、つまり自分の子どものことになると、うまくいかないことが多いのです。このことを知っておかないと、「ママ先生」「パパ先生」(以下、区別がない限り「ママ先生」と表記します)の子育ては、悩みが増え続けるのです。
例えば、学校の子どもたちは、よほどのことがない限り、先生に対して露骨に文句を言ってくることはありません。また、先生が子どもに注意するときも、保護者の存在を想定して、ひどい注意の仕方はしません。先生は子どもの様子を丁寧に観察し、悩みを抱えているような様子が見られたら、すぐに声掛けをして丁寧に話を聞いています。そして、保護者に対してこのように話します。
「おうちでは、どんなに忙しくても子どもの様子を丁寧に見てやってくださいね」
「子どもの話を最後まで聴いてやってくださいね」
「子どもの行動を、早く早くとせかしたりせずに、待ってあげましょうね」
だからこそ、保護者や子どもたちも安心して先生に相談をすることになるのでしょう。
しかし、自分の子どものことになるとどうでしょうか。「何をやってるの。早くしなさい」とか「そんなことしたら駄目でしょ」「いい加減にしなさい」などと、つい感情がむき出しになって思っていることを配慮なく言ってしまったり、子どもの話を最後まで聴かないまま、自分の考えを「先生口調」で言ってしまったりすることがあります。
自分の子どものことになると、心と時間の余裕がなくなることが多いのです。ここにママ先生の苦悩が始まります。「自分が思ったように子どもが育っていかない」「学校ではうまくいっているのに、うちの子にはうまくいかない」というように。同じことをしているはずなのに…。
丁寧に誠実に成果を出したいというママ先生であるが故の悩みです。それは、「しっかりやっているママ先生」の証しでもあります。本連載では、そんなママ先生が少しでもほっとできる具体的なアドバイスをお伝えしていきます。
【プロフィール】
東ちひろ(ひがし・ちひろ) 幼稚園・小学校教員・中学校相談員、教育委員会勤務を経て、現在は公認心理師、スクールカウンセラー、一般社団法人子育て心理学協会代表理事、株式会社子育て心理学オフィスひがし代表取締役として、心理学とコーチングをベースにした「ココロ貯金」のメソッドを独自に開発。教育に携わって30年余、今まで相談・講座・講演を受けた子ども・保護者・学校の先生は、のべ2万件以上の実績がある。NHK「あさイチ」、TBS「ひるおび」などメディア出演や『教室で使える ほめ方・しかり方の極意』(明治図書)など著書も多数。子どもと保護者の自己肯定感を高め、勇気を与えたい。