【エビデンスで示す少人数学級の効果(5)】 「非認知能力」をめぐる研究

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 近年、教育政策を議論する際に学力と並んで注目されているのが「非認知能力」(Non-cognitive ability)である。知能検査で測られる知能やペーパーテスト等で測られる学力を「認知能力」と呼ぶ。非認知能力はその否定形、すなわち知能や学力ではない何らかの特性を指している。ここで注意したいのは「非」という言葉のかかり方である。非認知能力は「非・認知能力」であって、「非認知・能力」ではない。能力ではなく何らかの「特性」という言葉を使ったのはそのためである。

 では、非認知能力とは何か。簡潔に言えば「人々の人生にさまざまな良い結果をもたらすような心理的機能」と表現できる。また、OECD(経済協力開発機構)は、非認知能力に近い概念である社会情動的スキルを以下の3点を満たす心理的機能と定義している。

①個人のウェル・ビーイングや社会経済的進歩の少なくとも一つの側面に影響を与える

②意義のある測定が可能である

③環境の変化や投資により変化させることができる

 すなわち、個人や社会に良い影響を与え、かつ何らかの介入によって伸ばすことができるような心理的機能と言い換えることができよう。

 その定義から明らかなように、非認知能力にはさまざまな心理的機能が含まれる。国立教育政策研究所が非認知能力についてまとめた報告書では、60を超える心理的機能が非認知能力として整理されている。代表的なものとしては、自尊感情、好奇心、GRIT(困難な目標に向けて粘り強く努力する力)、自己コントロール、レジリエンス(逆境から回復し適応する力)のほか、誠実性などの性格特性が挙げられる。

 なぜ、非認知能力が注目されるようになったのか。その大きなきっかけは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授による一連の研究である。ヘックマン教授は2000年に発表した研究の中で、日本の高等学校卒業程度認定試験に相当するGED資格取得者の賃金に着目した分析を行い、GED資格取得者は認知能力の面で大学に進学しなかった高校卒業者と同程度であるにもかかわらず、賃金はGED資格非取得者と同等かそれを下回っていることを発見した。これは、GED資格取得者が認知能力として観察される「賢さ」以外の観察されない何らかの側面において劣っていることを意味する。ヘックマン教授はこの観察されない要因を非認知能力として特定し、その重要性を指摘したのである。現在では、心理学と経済学が融合する形で非認知能力の研究が進んでいる。

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