【エビデンスで示す少人数学級の効果(9)】労働経済学から見た教職の不人気化

【エビデンスで示す少人数学級の効果(9)】労働経済学から見た教職の不人気化
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 少人数学級が児童生徒に好ましい効果をもたらし、教員の就業環境の改善につながるとしても、それはあくまで必要な教員を確保できた場合の話である。必要な教員を確保できなければ、少人数学級政策の推進は「絵に描いた餅」になってしまう。

 また、仮に必要な教員の量を確保できたとしても、十分な質を確保できなければ、少人数学級の正の効果は教員の質の低下による負の効果と相殺され、期待されるほどの効果をもたらさないかもしれない。このように考えると、量と質の両面で必要な教員を確保することは、少人数学級政策の実現可能性だけでなく、その効果の大きさをも左右する重要な課題と言える。

 教職の不人気化は深刻化している。文科省が公表している「令和4(2022)年度(令和3(21)年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況」によると、小学校の競争率(採用倍率)は2.5倍と過去最低を記録し、受験者総数は前年度に比べて2812人の減少となっている。他方、中学校の競争率は前年度の4.4倍から若干回復して4.7倍となっているが、受験者総数は前年度と比べて1518人の減少となっている。

 都道府県別に見ると、小学校の競争率は14の県で1倍台、17の道県で2倍台となっている。近畿・四国地方は比較的高い競争率が維持されているものの、それ以外の地域では低倍率の状況が続いている。

 なぜ、教職は不人気化してしまったのだろうか。労働経済学という分野では、教員採用に関する研究が蓄積されているので、以下では経済学の観点から教職の不人気化について検討したい。

 まず紹介するのは、教員採用試験の競争率と景気変動の連動性である。教員採用試験の競争率は、景気変動の指標の一つである有効求人倍率(労働需給のひっ迫度)と逆相関することが知られている。日本がバブル景気に沸いた1980年代半ば以降、教員採用試験の競争率は低下を続け、91年に過去最低を記録したが、同時期に有効求人倍率は急上昇した。バブル崩壊後は有効求人倍率が急低下していわゆる就職氷河期を迎えたが、同時期に教員採用試験の競争率は急上昇し、2002年には12.5倍(小学校)と過去最高水準を記録した。

 教員採用試験の競争率と景気変動の関係性を前提とすると、近年の教員採用試験の競争率の低迷の背景には、アベノミクスによる積極的な経済政策の効果や、バブル期に大量採用した世代が50代に差し掛かる、いわゆる「2020年問題」などを背景として、比較的堅調な労働需要があったと考えられるのである。

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