教員採用試験の競争率が低下した背景として、前回紹介した堅調な労働需要の変化だけでなく、女性受験者の減少も挙げることができる。
データが存在する1992年以降の推移を見てみよう。92年の女性受験者比率は小学校が73.2%、中学校が63.4%であった。90年代半ば以降、女性受験者の比率は低下を続け、最新の2022年は小学校が39.4%、中学校が26.7%にまで激減している。教職の不人気化、それに伴う採用倍率の低下は、相対的には男性よりも女性において、より深刻化していると考えられる。
なぜ、女性受験者が激減したのだろうか。日本では1985年に男女雇用機会均等法が成立し、翌86年に施行された。施行時には、募集・採用・配置・昇進において女性を差別しないことが努力義務とされるにとどまったが、その後の改正を経て、現在では広く性別を理由とする差別を禁止する法律となっている。施行からもうすぐ40年となるが、この間、労働市場における男女間の処遇格差は着実に縮小してきた。男性労働者の平均賃金を100として算出される男女間賃金格差指数は、1992年の61.5から2021年には75.2にまで上昇している。
女性の高学歴化とそれに伴うキャリア志向の高まりは周知の通りである。民間企業において男女間の処遇格差が着実に縮小し、産休・育休制度が拡充・浸透していく過程で、女性にとって教職という職業の魅力が相対的に低下したことは想像に難くない。女性受験者比率の激減がそれを物語っている。性別に基づく待遇格差が是正されることは社会全体にとって望ましいことではあるが、それが教員採用試験の競争率低下を招いたとすれば、皮肉な巡り合わせと言わざるを得ない。
本連載では、信頼性の高いエビデンスを示しながら少人数学級の効果について紹介してきた。少人数学級は生徒の学力や一部の非認知能力を向上させるだけでなく、教員の労働時間やストレスを軽減し、仕事満足度を向上させる効果が確認されていることも示した。
少人数学級政策の推進は、各学校における教員配置数の増加を通じて、時に「ブラック」とやゆされるような教員の就業環境を着実に改善することが期待できる。そして、教員の就業環境・働き方の改善は、教職の不人気化に歯止めをかけ、男女を問わず教職を目指す若者の増加に寄与するという好循環につながる可能性がある。新型コロナ対策として始まった少人数学級政策の推進が、こうした好循環を引き起こす契機となることを期待したい。(おわり)