教員採用試験の受験者が減少傾向にある中、従来の夏の試験に加え、「秋採用」に踏み切る動きが自治体間で広がっている。文科省も今年度から、秋採用などを想定した筆記試験問題を自治体に提供するなど、試験の複数回実施を後押ししている。直前の夏の採用試験で不合格となった人の「再チャレンジ」を認める自治体もある。
文科省は秋採用の実施状況について調べており、現時点では2020年度に実施した教員採用試験に関する調査が最新データとなっている。それによると、人事権を持つ全国の68自治体(大阪府豊能地区教職員人事協議会を含む)のうち、秋採用を実施していたのは7自治体だった。ただ、他の自治体に務める現職教員にターゲットを絞って若干名を募ったり、高校の「工業」や「水産」といった特殊な教科の教員を募集したりするケースがほとんどで、小規模な採用活動にとどまっていたと言える。
これに対し、ここ2年ほどで広がってきた秋採用は、従来とは様相が異なる。大学4年生なども対象とし、数十人規模の募集をかけるなど、「本格採用」に乗り出す動きが出てきたのだ。
佐賀県教委は22年度から小学校教員の秋採用を始めた。20、21年度に実施した教員採用試験で、小学校の倍率が全国最低の1.4倍まで低下するなど、夏の採用試験だけで質の高い教員を確保することが難しくなってきたからだ。
同県の特徴の一つは、直前に実施された夏の試験で不合格となった受験者の出願を認めていることだ。県教委の担当者は「多くの方に受けていただきたい」と語る。間口を広げた募集が功を奏したのか、22年度は97人が志願し、採用予定数の20人に合格を出すことができた。今年度も秋採用で20人程度を募集しており、55人の応募者を集めている。
高知県教委も今年度、小学校教員を対象とした採用試験を12月に初めて実施する。20人程度の採用を目指しており、夏の採用試験で不合格となった受験者の再出願も認めた。
夏の採用試験を比較的早い6月に実施する同県は、他の自治体との併願で受ける教員志望者が多く、合格者のつなぎ止めに苦労している。小学校教員の場合、今年度は130人の募集に対して200人の合格者を出したものの、すでに辞退者が相次ぎ、11月28日までに81人を追加合格としている。こうした事情で予定人数を採用できない年が続いていることから、今回初めて試験の複数回実施に踏み切ることにしたという。
背景には、国による後押しもあった。秋採用などを実施する場合、試験問題を新たに作成する必要があるため、自治体にとっては負担となる。だが今年度は、文科省が複数回の採用試験を実施する自治体向けに教養試験問題を提供する取り組みを始めたため、これを活用することにした。
一方で、直前の夏の試験で不合格となった人の出願を認めない自治体もある。
小学校教員の秋採用を実施している北海道教委は、夏の採用試験で1次選考をクリアし、2次選考を欠席した人だけが応募できる仕組みにしている。初実施となった22年度は、30人程度の募集に対し、応募は7人にとどまり、合格者は4人だった。それでも、「直前に不合格となった人の出願を認めることは、矛盾する面があるのではないか」として、今年度も応募条件を変えなかった。24年度から他の自治体に勤務する現職教員を対象とした秋採用に乗り出す長野県教委も、夏に不合格となった人の応募は認めない方針だ。
夏の不合格者の再チャレンジを認めるかどうか、自治体間でも分かれる判断。文科省教育人材政策課は「試験当日に体調不良で力を出しきれないケースもある。複数の受験機会を設けることは基本的には良いことだと考えている」としている。