前回まで総論的なお話をしましたが、今回からは過去に学校現場で起こった重傷事故の予防についてお話をしていきます。比較的多く発生し、重傷度が高いのが転落事故です。
幼児では、家庭内での転落が多く、原因として危険を避ける能力が身に付いていないことが挙げられ、施錠・柵などで隔離することによって予防できます。小中学生の場合は危険を避ける能力はあり、冒険心・ふざけ行為・挑発・いじめなど多様な動機により、柵などは意図的に容易に乗り越えてしまいます。学校活動、特に休憩時間の転落が多くなっています。
2023年3月に出された消費者安全調査委員会の「学校の施設又は設備による事故等」の原因調査報告書によれば、12年4月から22年3月までの間に、小中学校では9件の死亡事故が発生しており、窓からの転落が5件、吹き抜けからの転落、椅子からの転倒、ゴールポストの転倒、防球ネット支柱の倒壊が各1件でした。窓からの転落のうち4件は、窓際にある棚などの上に乗った後に転落していました。
窓:窓からの転落が最も多く、窓から身を乗り出すことによって転落します。「窓の下に、用具入れや傘立てなど、足掛かりになるものを置かない」「窓には手すりを設置し、窓が10㌢しか開かないようストッパーを付ける」「遮光カーテンを使用すると向こう側が見えず、カーテンに寄り掛かって転落することがあるので、窓は必ず閉じておく」などが必要です。
バルコニー・キャットウォーク:これらの場所で遊んだり、飛び降りたりして転落します。「生徒が自由に出たり、登ったりできないようにする」、「安全な手すりを設置し、その下に足掛かりになるようなものを設置しない」などが必要です。
庇:屋根や庇などに落ちたものを取りに行って転落します。「立ち入り禁止の表示をし、立ち入らせない」「庇の近くの窓には手すりを設置して、立ち入ることができないようにする」などが必要です。
天窓: 08年6月、東京都杉並区の小学校で児童が転落死した天窓は、直径約130㌢のドーム状で、厚さは4㍉のアクリル樹脂製でした。児童がドーム状の天窓に乗ったところ、天窓が壊れて12㍍下に転落し、死亡しました。「天窓を鉄製の柵で囲うか、天窓そのものをふさぐ対策を取る」ことが不可欠です。
屋上:「出入口は常に施錠する」「タラップは、容易に上がることがないよう1段目を高くする」ようにします。児童生徒は毎年変わり、先生も変わります。変わらないのは校舎、設備だけです。事故の原因を管理者と現場近くにいた個人の責任として処理しても予防にはつながりません。製品や環境を変える必要があるのです。