今夏の教員採用試験の合格者は、年が明ければ最初の赴任校も決まり、いよいよ4月からは待望の教員としての生活が始まる。初任の1年に向けて、アドバイスなどをまとめておいた。これから受験する者も頭に入れておいた方がよい内容である。
前提として、すでに始まっていると思われるが、教育委員会および学校の面接が行われ、面接の結果、取得免許との関わりで、小中高校・特別支援学校など最初の赴任校の学校種などが具体的に決まる。例えば美術や音楽などの免許取得者は、小学校の専科に充当される場合がある。この場合は原則担任を持つことはできない。自分の希望とは異なり、島しょやへき地の学校に配属されることもある。一貫校が増えてきており、小学校と中学校、あるいは中学校と高校の教員の兼務の場合もある。
教委面接では、あらかじめ提出されている履歴などをもとに、直接詳しい話が聞かれ、配属校が決められる。届け出た連絡先に電話、メール、郵便などで面接の日時や場所などの連絡が来るので、必ず連絡が取れる状況にしておく。現在仕事に就いている者は、3月末ぎりぎりまで仕事をして4月1日から学校勤務という余裕のない日程だと、体調を崩しやすく、避けるようにしたい。
配属校が決まると学校を訪れ、校長、副校長、教頭らと面会することになる。年度末は大変忙しく日程調整が難しい中で、面接日時が指定されることが多い。自分の都合はできるだけ調整して指定の日時に行けるようにする。学校までのルート、所要時間を前もって調べ、余裕を持って出掛けるようにする。早く着いたら学校周辺を散策し、どんな地域か見て回るとよい。なるべく公共交通機関を使い、自家用車の使用は避ける。
学校では、所属の学年、担任、分掌、教科などについて話がある。これから始まる長い教員生活の初年度なので、どんなことでも勉強のつもりでできるだけ引き受けたいものである。自分に保育や介護、通院、結婚その他事前に理解しておいてもらいたい個人的な事情があったら、率直に伝えた方がよい。
教員としてのキャリアは、4月1日の辞令伝達から始まる。教員としての第一歩である。国公立の学校の場合は、国家もしくは地方公務員としての第一歩でもある。心新たに希望に燃えて臨むこととなるであろう。子供たちに好かれる、保護者に信頼される、同僚から認められる教員になろうと夢を抱いて教員になることであろう。
公務員としてスタートするに当たっては、まず地方公務員法(地公法)の定めに従って、服務の宣誓をしなければならない。「法令に従い職務を遂行することを誓います」といった内容の宣誓である。
法令に従うということはどのようなことか。第一は日本国憲法の定めに従うということ。また、公務員としての仕事を進めていくときには、必ず法律などの定めがあるということである。この服務の宣誓も地公法第31条の定めである。
ここで採用試験受験中に勉強したことを思い出してみよう。地公法第30条では「全体の奉仕者として」という定めがある。以下、「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」「信用失墜行為の禁止」「秘密を守る義務」「職務に専念する義務」「政治的行為の制限」「争議行為等の禁止」「営利企業等の従事制限」といったものが続いている。
さらに教員は教育公務員特例法によって「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」ことになっている。常に心しておくとよい。
教員の仕事は、子供たちに希望を語り、夢を育むことが基本である。こうした素晴らしい仕事に取り組んでいくためにも、守らなければならないものはしっかりと守っていかなければならない。
教員は、4月になれば校長から学校経営案を示され、学級担任であればそれに基づき学級経営案を作成しなくてはならない。始業式からは待ったなしで子供たちと関わり、保護者にもすぐに保護者会などで対応していくことが求められる。これらの対応に戸惑い、最初につまずくと、その後の教員生活に大きな差がつくこともある。実際、スタートでつまずき自信を喪失し早期退職する教員も少なくない。合格者はこれから4月まで現場に向けての勉強を怠ってはならない。
どのような勉強が必要になるか。学校現場を具体的に想定した勉強が求められる。まずは4月からのスケジュールをきちんと把握し、見通しを持ってどのようなことがあり、どのような対応が必要かシミュレートする必要がある。11月16日号本紙面に年間の学校行事予定を紹介しているので参照にされたい。また、学校が決まれば、その校長などに早めに確認しよう。同じ校種なら共通事項も多いので、教育実習の指導教官、学校の先輩の教員などに聞くのも手である。
4月の始業式で子供たちにどのような言葉を掛けるのか、から考えていくとよいだろう。実際には、どの地域の学校に赴任するのか、何年生の担任になるのかは、新学期近くならないと分からない。だからこそ、あらゆる場面を想定して勉強することが大切となる。赴任までに、教員としての心構え、学級経営、生徒指導、教科指導などを具体的に学びたい。
勉強の際には学び合いが必要なので、試験対策時と同様、少なくても2~3人のグループでの学習が求められる。教員は視野が狭くなりがちなので、意見交換しながら学びたい。
新任教員と言えば、初任者研修がある。教育公務員特例法第23条に「公立の小学校等の教諭等の任命権者は、当該教諭等に対して、その採用の日から一年間の教諭の職務の遂行に必要な事項に関する実践的な研修(以下「初任者研修」という)を実施しなければならない」と定められている。1989年度から小学校で実施されたのを手始めに、中学校、高校、特別支援学校へと段階的に実施されてきた。
この研修の目的は法律に明記されているように〝実践的な研修〟であり、教員として必要な実践的な指導力を身に付けるための研修である。大学で学んだ教育に関する理論や、教育実習などを通して得た教育に関する体験は、教員の道を歩んでいく者にとっては欠かすことのできない基礎的な素養であるが、教員としてはそれだけでは十分とは言えない。実際に、学校で子供たちと出会い、毎日ともに生活をし、子供たちを指導し、さまざまな行事やその他の教育活動に子供たちと取り組んでみると、それまでの学びや体験では解決できないことが多く出てくる。
そこで、学校で子どもたちの指導に当たりながら、教師としての基礎的な素養をさらに身に付けたり、学習指導や生徒指導といった面での具体的な指導の方法や内容、さらには技能などについて学んでいったりするところに初任研のポイントがある。
従って、研修をより充実したものとするためには、子供たちとの日々の関わりの中で、この場合はどうしたらいいか、どのような指導をしたら子供たちにより分かりやすくなるか、など常に問題意識を持って教育活動を展開していくことである。
初任者の機会は一度しかない。来年には、新しく赴任してくる初任者の先輩として指導者的な立場に立つことになるのである。最初の1年、初任研の趣旨と意義を踏まえて有意義に過ごしてもらいたい。