日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータ(2021年度)を見ると、小・中・高校の負傷・疾病の発生件数は約75万5千件に上り、その9割以上は負傷によるものです。最近では、学校安全計画の中で安全教育の充実が求められていますが、現在のところ児童生徒が「事故の予防」について学ぶ機会はほとんどないと思います。今回は、児童生徒への安全教育の具体例を紹介します。
1.事故は、自分にとって身近で重要な課題であることに気付く
2.事故は予防可能であることを知る
3.予防方法はABC理論で考える
4.予防のための自分の役割を見つける
ABC理論とは、事故が起こった状況の中から、「変えたいもの(A)」「変えられないもの(B)」「変えられるもの(C)」を定義し、「変えられるもの(C)」を変えて、「変えたいもの(A)」を変えるという考え方です。
教育プログラムは、座学とワークショップの2段階で構成されています。学習内容は、まずABC理論を含む事故予防の基本的な考え方を学び、その後、学校内の危険な場所の写真を撮り、その場所を「変えられるもの」という視点で安全にする方法を考えて発表するというものです。
1人1台端末の使用により、児童生徒は授業中の短い時間で効率的に学校の危険箇所の写真を集めることができるようになりました。また、収集した事故情報を処理できるソフトウエアを開発し、データの収集や集計を簡単に行うことができるようになっています。
具体的な事例として、例えばある小学校では、児童が撮ってきた写真とともに改善してほしい理由を書いた手紙を校長先生に渡し、雨で濡れると滑りやすい昇降口が滑らない床材に改修されました。その他にも、予防のための児童のユニークな発想に、同じクラスの児童、先生、事故予防の専門家が強い関心を示した例もたくさんあります。
学校安全に取り組む必要性は分かっていても、いつ、誰が、どうやって実施するのかなどの課題がありますが、現在は多くの学校で小学5年生の保健体育の中に「けがの防止」という単元として、この安全授業を実施しています。保健体育以外にも「生活科」「学級活動」「総合的な学習の時間」「家庭科」など、事故予防を取り扱うことができる単元はたくさんあると思います。
この試みは、産業技術総合研究所人工知能研究センターの大野美喜子研究員が行っており、関心がある方は直接連絡をお願いいたします。