宮城県白石市に今年度開校した、東北初の小中一貫学びの多様化学校(不登校特例校)、「白石きぼう学園」(白石市立白石南小中学校)。急激な少子化に直面している同市では、今後10年間で現状の小中学校15校を、規模の異なる3校に再編するという審議会からの答申案が出され、白石きぼう学園はその中で、特色ある学校の一角を担う予定だ。少子化が進む地域で、学びの多様化学校をまちの魅力として位置付けていく意義を探った。
今後5年ほどで、1学年の子どもの数が半減する――。白石市は今、想定を上回る急激な少子化に直面している。来年度、小学校に入学する新1年生は約200人だが、昨年度の出生数は100人超にとどまった。今年度は100人を切ることが予想されている。「義務教育について、市としてどのような政策を考えていくかが、大きな課題となっている」と、同市教委の半沢芳典教育長は懸念を隠さない。
少子化は今に始まった問題ではない。同市は2018年から19年にかけて、小学校1校、中学校2校を統廃合したばかりだった。23年度の市内の児童生徒数は小学校1279人、中学校754人で、小学校5校では複式学級がある。
今後、出生数がV字回復する見込みは薄い。これまで通りに統廃合を繰り返すだけでは抜本的な解決にならず、子どもたちや地域の混乱も大きい――。昨年度設置された、市民や有識者などでつくる白石市学校教育・保育審議会は、高校生や若者、保護者の意見を幅広く聞きながら、これからの学校教育の在り方を議論。今年7月、今後の学校再編に関する答申をまとめた。
審議会が提言した案は「現在の小中学校15校を、小中一貫義務教育学校・小中一貫小規模校・小中一貫学びの多様化学校(不登校特例校)の、規模の異なる3校に再編するとともに、学区制をなくして、希望に応じて学校を選べるようにする」というものだった。こうした教育環境を望む声は、高校生・若者世代からも寄せられていた。
同市は今後、この答申を基に再編計画を策定する予定だが、3校のうち小中一貫学びの多様化学校だけは、一足先に開校の計画が進められていた。少子化の中でも、不登校の子どもが増加していたからだ。
同市の22年度の不登校児童生徒の数は小学生24人、中学生63人で増加傾向にあり、全国平均の出現率と比べて小学生は同水準だが、中学生は上回っている。同市には民間のフリースクールがなく、不登校児童生徒の支援は、主に同市の教育支援センターや適応指導教室、各学校が担ってきた。
半沢教育長は2年ほど前から、小中一貫の学びの多様化学校の設置を考えていた。教育課程があり、教科の教員も配置できる。また小中の接続がスムーズで、長期にわたる学習支援が可能になるほか、人間関係にも安心感を持って過ごせると見込んだ。
昨年1月には、東京都にある国内初の学びの多様化学校、八王子市立高尾山学園を視察。その後、文部科学省への申請や関連予算の確保を急ピッチで進めた。「できるだけ早く、子どもたちの学びの選択肢を増やしたい」という一心だった。こうして、19年に廃校になったばかりの南中学校の校舎を再活用する形で、白石きぼう学園が開校した。
不登校児童生徒が同校で学ぶか、他の支援拠点や学校で支援を受けるかは、引き続き教育支援センターが児童生徒の状況や希望を集約した上で、一人一人に適した学びの場を検討する。年度途中で学びの場を変えることも認めている。
「今の学校には、やらなければならないことか、やってはいけないことしかない」。半沢教育長は、どこかで読んだ不登校の子どもの言葉が引っ掛かっていた。「自己選択と自己決定の機会が乏しい、学校の現状をまさに言い当てた言葉だ。学校に行きたくても行けない子も、行かない選択をした子も、学校での生きづらさがあったのだろう」
同市では、不登校になって小規模校に転校したものの、再び通えなくなってしまったケースがあったという。「大人数が苦手な子どもももちろんいるだろうが、学校規模の問題だけではないような気がしている。もっと大きな要因は、学校運営のスタンスなのだろう」と半沢教育長は考えている。
だから白石きぼう学園では、自己選択と自己決定の場面を大切にしている。同校の行事は、入学式と卒業式だけ。しかし子どもたちがしたいことがあれば、できる限り取り入れる。制服も校章も、校歌もないが、子どもたちが作りたいと思えば作ってよい。部活動はないが、近隣の学校の部活動に参加できる。学校給食も選択制で、弁当を持参しても構わない。
「いくら理想の学校を作っても、子どもが通ってこないなら絵に描いた餅になる。子どもが通ってくること、まずはそこからだ」と半沢教育長。「子どもたちはよく『この学校は楽だ』と言う。制度が緩やかで強制されない雰囲気があり、受け入れられていると感じるのだろう。これまでの学校は、多様な子どもたちに同じことを求め過ぎていた」と語る。
これから10年かけて大掛かりな学校再編を進めていく道のりは、決して平坦ではない。学校の統廃合には、地域住民から賛否両論が寄せられるのが世の常だ。再編の方向性には賛成しても、具体的な進め方に反対するケースもあるし、改革のロードマップを早く示すよう求める声もある。半沢教育長は「子どもの教育のことで、地域に分断を生じさせたくはない。時間をかけて丁寧に、合意形成を図っていきたい」と理解を求める。
不登校に対しても依然、さまざまな見方がある。教育機会確保法以降、「無理やり登校させる指導は望ましくない」という理解は進んだが、白石きぼう学園のような「学校らしくない学校」に対し、疑問を抱く住民もいないわけではない。さらに現在、同校には近隣地区から通う児童生徒がいないため、通常の学校と比べ、近隣の地域とのつながりをより意識的に築いていく必要もある。
「不登校の子どもたちが通ってみよう、保護者が通わせてみようと思えるような学校にすること、そしてこの学校の魅力を広く発信していくことが、これからの極めて大きな課題になる」と半沢教育長。
「『隣の学校がやるからやる』という発想は、もう変えていかなければならない。特に白石きぼう学園は、開校しただけで満足してはいけない。今後は地域の人々や民間企業、大学の研究者などから『こんなことをしたらよいのではないか』『こういうことなら協力できる』といった意見を幅広く募り、学校の魅力を高めていきたい」
白石きぼう学園では来年度から、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)を導入し、地域との連携を強めていく予定だ。不登校の児童生徒を含め、さまざまな子どもたちの自己選択・自己決定を後押しする「多様性」。まち全体で対話をしながらこれからの教育を考えていく「合意形成」。2つのキーワードのもと、同市は10年後の学校創生を見据えている。