新しい学習指導要領ほど小学教員に低評価 時間割過密化が影響か

新しい学習指導要領ほど小学教員に低評価 時間割過密化が影響か
記者会見して調査結果を発表する東京学芸大の大森教授=撮影:大久保昂
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 ベテランの小学校教員たちは、おおむね10年ごとの学習指導要領の改訂の度に、授業時数が子どもたちの生活に合わなくなってきたと感じている——。東京学芸大の大森直樹教授(教育史)が1月18日に発表した調査結果で、こんな傾向が明らかになった。1日当たりの標準授業時数は「ゆとり教育」と呼ばれた1998年の学習指導要領も含め、直近3度の改訂によって増加の一途をたどっており、大森教授は「多くの教員は、今の子どもたちには過重な負荷がかかっていると感じている」と指摘。小学校については、週25コマ(1日5コマ)に収まる授業時数とすることを提案した。(※記事中、学習指導要領を説明する際の西暦は改訂年を表す)

 調査は2023年7〜9月、日本教職員組合(日教組)の関係団体である一般財団法人「教育文化総合研究所」を通じ、小学校教員(一部退職者を含む)を対象として実施した。自身が教員として経験した学習指導要領に基づく標準授業時数について、「授業時数は子どもの生活に合っていたか」「子どもの学習は充実していたか」を尋ね、2445人の回答を得た。内訳は▽1977年指導要領から5期を経験=293人▽89年指導要領から4期を経験=487人▽98年指導要領から3期を経験=668人▽2008年指導要領から2期を経験=699人▽現行の17年指導要領のみを経験=248人▽その他=50人——となっている。

 回答を集計したところ、教員たちの標準授業時数に対する評価は、学習指導要領の改訂の度に下がる傾向が明らかになった。5期を経験した教員の「子どもの生活に合っていたか」という質問に対する回答は、77年指導要領では「合っていた」「やや合っていた」を合わせた肯定的な回答が71.0%に達していたが、その割合は改訂の度に69.3%、38.6%、17.4%と低下し、現行の17年指導要領を肯定的に評価する教員は10.9%まで落ち込んだ。「子どもの学習は充実していたか」についても、「充実していた」「やや充実していた」の合計は77年指導要領が83.3%と最も高く、その後は76.5%、44.4%、24.9%、19.5%と低下を続けた。こうした傾向は、4期以下の経験者でも同じだった。

 大森教授は新しい学習指導要領ほど評判が悪い理由の一つとして、改訂の度に時間割の「過密化」が進んできたことを指摘する。

 大森教授は調査に先立ち、1968年以降の6つの学習指導要領について、条件をそろえた上で、1日当たりの標準授業時数を比較した結果を公表している。それによると、「ゆとり教育」と呼ばれた98年指導要領は、年間の授業時数こそ大きく削減したものの、土曜日を休みにする「学校週5日制」が導入されたことで、1日当たりの授業時数は逆に増加。その後の2度の改訂では、英語教育の導入・拡充を背景として授業時数がさらに増えた。現行の指導要領に基づく小4〜小6の1日当たりの標準授業時数は、学級活動や行事などに充当する「特別活動」(特活)の時数を除いても5.6コマに達しており、「肥大なカリキュラムで『落ちこぼれ』をたくさん生み出している」と批判された1968年指導要領を上回っている。

 今回の調査では、授業時数の在り方に対する意見などを自由に記述してもらう欄も設けた。計1135件の回答が寄せられたが、約4割にあたる447件は、主に「授業時数の量」に関する記述で、その大半が「現在の授業時数は多すぎる」という趣旨だったという。

 この他、標準授業時数を下回る授業編成を現場が恐れていることを主に指摘する内容(81件)や、年間の標準授業時数が授業週数の「35」で割り切れない教科があり、時間割調整が負担になっていることを主に訴える内容(21件)もあった。授業時数の増加が不登校に拡大につながっている可能性を主に指摘する内容も20件あり、授業時数を巡る幅広い問題意識が現場に広がっていることが明らかとなった。

 大森教授は調査結果を踏まえ、特活を含めて週29コマとなっている小4〜小6の標準授業時数を、毎日5時限でこなせる週25コマまで減らすよう提案している。具体的に必要な見直しとして、①実態に見合っていない特活の時数を週2コマとする(1コマ増)②社会・音楽・図画工作・家庭・体育の5教科を「35」の倍数だった89年指導要領の水準に戻す(2コマ増)③外国語科・外国語活動を廃止する(2コマ減)——を挙げた。この3つを実現すると週30コマとなるが、これをベースに5コマ減らす方法を考えるべきだとしている。

 また、カリキュラムが肥大化してきた背景には、競争的な教育政策や当事者による自己決定権の軽視もあるとして、「全国学力・学習状況調査」の全員参加方式をやめることや、授業時数・教育課程を決定する際に教職員や子どもの声をより反映させることを求めた。

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