文部科学省委託事業「子どもみんなプロジェクト」は、2015年に始まりました。当時すでに社会問題化していた、いじめ、不登校といったことに、科学を使って解決していこうということで、大阪大学をはじめとする10大学がコンソーシアムを組み、それぞれの地域の教育委員会と連携して、研究とその社会実装の両方に取り組んだものです。私の所属する子どもの発達科学研究所は、その第1期において中心的役割を果たしました。
第1期の成果の一つが、日本学校風土尺度(Japan School Climate Inventory:JaSC)の開発です。研究開発の結果、JaSCは32項目になりました。具体例を挙げると、「この学校の先生は、私がうまくできた時に認めてくれる」「この学校では、他の人の気持ちを理解するための方法を学んでいる」などの項目について、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「ややあてはまらない」「あてはまらない」から選択して回答することになっています。
ところで、23年7月31日に文科省から、「不登校児童生徒の支援に係る情報提供等について」として「学校風土の把握ツール※」の紹介がされました。そこには、ここで話題にしている学校風土調査の他にも幾つかのツール類がリストアップされていましたが、それぞれの内容をよく検討してみてください。多くのツールが、子どもに注目しているように思います。
つまり学級での適応状態や学級の雰囲気よりも、子どもの側のスキルや満足度、ストレスの状況などを明らかにしているのです。中には学級集団の状況を把握しているものもありますが、そう感じ取る子ども個人の問題に関連付けて解釈しているものが多いように感じます。
その点、JaSCは学校風土そのものに直接切り込んでいます。だからこそ教師にとって厳しいのです。JaSCでは、子どもが教師の行動を評価します。子どもたちが、授業、子ども同士の関係性、学校のルールや価値観といった項目をシビアに評価します。その結果を見ると、恐ろしいほど正直だと感じられます。
JaSCが開発されたのは17年です。その後、たくさんの学校に使っていただいたことから、すでにかなりのデータが集まってきています。そうしたデータを使って私たちはさらに研究を進め、日本の子どもたちが考える学校風土とは何か、彼らが最も重視していることは何かなどを明らかにしました。そして、そうした研究結果を反映し、改訂版の開発も行っています。