岸田文雄首相は1月30日、衆参両院の本会議で施政方針演説を行い、学校の教職員について「処遇見直しを通じた質の向上を図っていく」と述べた。こども・子育て政策では、児童手当の拡充や高等教育の負担軽減などの政策を実行していく考えを説明。これに関連して、こどもと接する仕事に就く際に性犯罪歴がないことを証明する「日本版DBS」を制度化する法案を開会中の国会に提出する考えを表明した。
岸田首相は、学校教育について「質の高い公教育の再生、教育の国際化とともに、教職員の処遇見直しを通じた質の向上を図っていく」と述べ、教職員の質の向上を目的に処遇改善に取り組む方針に改めて言及した。教員の処遇改善を巡っては、昨年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)で2024年度から3年間を「集中改革期間」と位置付け、残業代の代わりに月給の4%を教職調整額として支給することを定めた給特法についても25年度予算編成を視野に「24年度中の改正案の国会提出を検討する」と明記しており、こうした改革に取り組む方針を再度確認した形となった。
こども・子育て政策では、児童手当の拡充、高等教育の負担軽減、保育所の配置改善、児童扶養手当の拡充など、これまで取り組んできた政策について、「今年はいよいよ本格実施されるステージに入る」と述べ、開会中の国会に必要な法案を提出して実行に移していくことを説明した。
こどもに対する性犯罪や性暴力については、「重大な人権侵害であり、あってはならない」と強調。「日本版DBS」を制度化する法案について「今国会での法案提出を目指し、より実効的な制度となるよう検討を進める」との考えを示した。
岸田首相は、今回の施政方針演説で「デフレ完全脱却」を日本経済の戦略課題に挙げ、「今年、物価高を上回る所得を実現していく」との目標を明示した。これに関連して、医療や福祉分野、公共事業や給食をはじめとする公共サービス分野でも単価設定や調達制度の改革で適正な価格転嫁を促し、こうした分野で働く人たちにも「物価高に負けない賃上げを確実に実現していく」と述べた。
さらに「本丸は、物価高を上回る所得の実現」と指摘。「あらゆる手を尽くし、今年、物価高を上回る所得を実現していく。実現しなければならない」と語気を強めた。6月から1人4万円の所得税・住民税の減税を行って可処分所得の下支えを行い、「『賃金が上がることが当たり前だ』という前向きな意識を社会全体に定着させていく」と訴えた。
演説の冒頭には、元日に発生した能登半島地震とその対応を取り上げた。犠牲者に哀悼の意を示した上で「政府・地元が一体となって被災者に寄り添い、生活となりわいを支えていく息の長い取り組みを続けていく。異例の措置でも、ためらわずに実行していく」と述べ、来年度予算案の予備費を1兆円に倍増したことを説明した。
首相による通常国会での施政方針演説は、通例、召集日に行われるが、今回は自民党の派閥の政治資金問題を受け、1月29日に予算委員会で集中審議が行われた後に施政方針演説を行う異例の形となった。