大分市立小学校に勤める30代の男性教員が、X(旧ツイッター)の匿名アカウントを使い、他の利用者を誹謗(ひぼう)中傷するような書き込みをしていたことが1月末、明らかとなった。今回の問題に限らず、SNSを巡る教員のトラブルが各地で相次いでいる。一方、教員にも表現の自由があり、SNSを通じた発信によって学校現場の課題が社会に広く伝わった事例もある。教員たちはSNSとどう付き合えばいいのか。長年にわたって活用している教員と学校現場を良く知る法律家に聞いた。
大分市の教員による不適切な投稿は、大分市教育委員会への外部からの指摘によって発覚した。市教委は「教員による具体的な投稿内容を明らかにするのは控えたい」としているが、読売新聞の報道によると、この教員は娘がいじめを受けていると訴えているアカウントに対し、「ポンコツ」などと人格を否定するような投稿をしていた。教員は市教委の聞き取り調査に対し、「(やりとりの中で)エスカレートしてしまった」と事実関係を認めており、既にアカウントを削除した。他にも不適切な投稿を繰り返していた可能性があり、市教委が調査を進めている。
「匿名であっても安全地帯などない」
今回の問題について、岐阜県立高校の西村祐二教諭はこう語る。西村さんは2016年8月にツイッターのアカウントを開設し、主に教員の働き方に対する問題意識を発信し続けてきた。当初は「斉藤ひでみ」を名乗る匿名アカウントだったが、19年10月に実名を明かした。
Xに投稿する際の基本的な考え方は、匿名時代から変わらない。部活動の顧問制度など、教員の勤務の在り方を取り上げる際には、制度の問題を指摘することに重点を置き、個人批判は控えてきた。誰もが見られる公開の場に投稿していることを常に意識し、表現にも気を遣っている。だからこそ、匿名アカウントをそのまま実名に移行させることができた。
地道に発信を続けてきた成果もあって、西村さんが問題視している公立学校の教員には残業代が支払われないという事実は、以前よりも広く知られるようになった。文部科学省が21年、ツイッターを活用して教員自身に学校現場の魅力を発信してもらうプロジェクト「#教師のバトン」を立ち上げた際には、企画の意図に反し、多くの教員が厳しい勤務実態を投稿。社会に向けた大きなアピールになった。こうした経験から、西村さんは「実名、匿名を問わず、教員がSNSで発信することには意義がある」と強調する。教員自身による情報発信、意見表明の動きが弱かったことが、学校現場の仕事の増加につながった側面もあると考えている。
ただ、近年は教員を名乗るアカウントの投稿に、違和感を覚える場面も増えてきたという。執拗(しつよう)に特定の個人をとがめたり、言葉遣いが乱暴だったり。特に「#教師のバトン」がスタートし、教員を名乗る匿名アカウントの投稿が活発になってから、そうした感覚を強くした。一部のアカウントの発信内容がエスカレートしていることについて、いさめるような投稿をしたこともある。
西村さんが「自浄作用」を働かせようとしているのは、「働き方改革を進める上で逆効果になるのではないか」との危機感があるからだ。教員を名乗るアカウントが、公開の場で保護者や子どもを批判していては、教員という職業そのものが社会の信頼を失いかねない。「仮に匿名であっても、SNSでの投稿内容が教師という職業全体のイメージに直結することに自覚的であってほしい」と呼び掛ける。
一方、弁護士資格を持ち、スクールロイヤーとしても活動している兵庫教育大の神内聡准教授(学校経営論)は「公立と国私立の教員は身分が異なる。それぞれに適用される法律や就業規則をきちんと守ることが大事だ」と指摘する。
公立学校の教員の場合、地方公務員法が適用される。勤務時間中のSNSへの投稿は、同法で課されている職務専念義務に違反していると判断される可能性がある。
神内さんによると、勤務時間外の投稿については、基本的には「言論の自由」の範囲内だ。ただ、どんな内容でも許されるわけではない。同法は、職務上知りえた秘密を漏らすことや、公務の信用を傷つけるような振る舞い(信用失墜行為)を禁じているからだ。
例えば、匿名アカウントで「今日はクラスのいじめ対応に苦労した」と投稿した場合、教育委員会や管理職によって投稿者が特定されれば、守秘義務違反に問われる可能性がある。また、他人の人格を否定するような投稿は、侮辱罪や名誉毀損罪だけでなく、信用失墜行為と見なされるリスクをはらんでいる。神内さんは「Xなどの教員による投稿を見ていると、危ういものも散見される。守秘義務や個人情報保護の観点で言えば、勤務校などの出来事を投稿する場合、学校や教育委員会のホームページで公開されている内容にとどめるのが無難だ」と話す。
Xなどでは、教員を名乗るアカウントが文科省や教育委員会の政策を批判しているケースも目立つ。こうした投稿について、神内さんは「勤務時間外であれば、特に問題はない」との見解を示す。ただ、「行政批判であっても、個人を誹謗中傷するような内容は侮辱や名誉毀損に該当する可能性があるので注意が必要だ」と付け加えた。
SNSでは、教員が保護者などから中傷を受けることも考えられる。こうした場合については、「証拠を保存し、管理職や教育委員会と相談した上で法的措置も含めた対応が必要になる」と話した。