第8回 学校風土を変えることの難しさ

第8回 学校風土を変えることの難しさ
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 学校風土が子どもたちの行動にどのような影響を与えるのかについては、たくさんの研究があります。例えば、ポジティブな学校風土が不登校、いじめ、薬物使用などを予防することは、よく知られている事実です。また、子どもの学習意欲を高めて学力を向上させますし、大学進学率を高め、中退を防ぐことも分かっています。さらにはLGBTQの子どもや障害のある子どもの安心感を高めること、教職員の離職率を減らすことも指摘されています。

 つまり、学校風土は魔法のつえです。だとしたら、すぐにでも学校風土を向上させたいとなるのですが、それが簡単ではないのもまた事実です。

 なぜでしょうか。その難しさについて、例を挙げて考えてみましょう。例えば、厳しい指導で有名な学校があったとします。先生たちはいつも表情が硬く、子どもたちに対して叱責(しっせき)ばかりしています。それがその学校の伝統であり、そうした指導により、部活動が強かったり、学業成績が良かったりするなどの成果があったのですが、そのうちに不登校や子どもたちのメンタルヘルスの悪化が出てくることもあります。要するに、今の子どもの発達や社会の価値観に、その学校のルール設定や先生たちの指導方法が合わなくなり、問題が増えてきたわけです。こうした状況に際して、その学校はルール設定、先生たちの指導方法、授業のやり方を変えられるでしょうか。

 実のところ、ここで話題になっている学校におけるルール設定や先生たちの指導方法、授業のやり方は、学校風土そのものです。つまり、学校風土の変革が必要なのですが、その学校の先生の立場で考えてみると、その変革が非常に困難であることが分かると思います。

 何しろ、ルール設定も指導法もその学校の「伝統」です。それを変えるのは、今までのことを否定するように感じる人もいるかもしれません(本当は違います。単に今の時代に合わせようとしているだけです)。校長はその気になっていても、そうした指導の方法しか知らない現場の先生が猛反発するかもしれません。あるいは、OBや保護者が嫌がるかもしれません。

 だからこそ、科学が必要なのです。その学校の学校風土を正確に測定し、学校風土の向上の必要性をエビデンスを使って説明することができれば、もしかしたら伝統をその時代に合ったものへと変革できると思うのです。もちろん、それは大きな挑戦ではあるのですが。

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