給特法「現行の枠組み維持した上で改善」が大勢 中教審特別部会

給特法「現行の枠組み維持した上で改善」が大勢 中教審特別部会
教員の処遇見直しの議論をスタートした中教審特別部会=オンラインで取材
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 給特法の改正を含めた教員の処遇見直しの議論が2月14日、中教審の「質の高い教師の確保」特別部会で本格化した。文部科学省による論点提示を受けた委員の意見交換では、「教員の処遇改善が必要」との認識をほぼ全ての出席者が示した。その上で、公立学校教員に残業代を支払わず、代わりに基本給の4%を教職調整額として支給する枠組みを定めた給特法について、「現在の教員の勤務実態に合っていない」として、現行の枠組みを維持した上で教職調整額の上乗せなどの改善を求める意見が大勢を占めた。

教員の処遇改善 「教職の魅力向上」の観点で議論

 教員の人材確保や処遇改善を巡り、政府は2023年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)で、24年度から3年間を「集中改革期間」と位置付け、給特法改正を25年度予算編成に合わせて進める考えを打ち出している。具体的な制度設計を委ねられた中教審は昨年6月に特別部会を設置。これまで学校の働き方改革や指導・運営体制について議論を重ね、今回の特別部会第9回会合から給特法の見直しを含む教員の処遇改善の議論に入った。

 会合ではまず、文科省が教員の処遇改善を巡る論点について、「学校教育の成否を左右する教師に質の高い人材を確保することが必須。抜本的に教職の魅力を向上させることが求められている」とした上で、「教師の給与に関する制度の枠組みの見直しを含めて処遇の改善を図っていくことについて、どのように考えるか」と議論の方向性を示し、教職の魅力を向上させる観点から教員の処遇改善を検討することを求めた。

 これに続く委員の意見交換では、給特法について現行の枠組みの維持を求める指摘が目立った。戸ヶ﨑勤委員(埼玉県戸田市教育長)は「これまでの人材確保法とか、また給特法の精神は今後もしっかりと維持していく必要がある」と、一般の地方公務員よりも教員を優遇する法律上の仕組みを堅持すべきとの考えを表明。その理由について「子供の幸福を実現してよりよい社会のために貢献していくという、生きがいや使命感が教師たちを支えている。教師自身の自発性とか創造性に委ねるべき部分が大きい」と述べ、労働時間を教員の裁量に任せる給特法の仕組みが望ましいとの考えを示した。

 鍵本芳明委員(岡山県教育長)も「教員の職務は自発性や創造性によるところが大変大きく、教員の職務を勤務時間の内と外で切り分けることは極めて難しいのは、(1971年の)給特法制定以来、何ら変わっていない。現状の学校で管理職が教員の時間外勤務命令やその管理を行うことはかなり困難であり、学校現場に混乱を起こす」との意見を説明。「今後は教職の魅力向上に向けて、給特法の枠組みの中でメリハリのある処遇改善を進め、同時にさらなる働き方改革の推進や、定数改善、支援スタッフの充実に一体的に取り組んでいくことが重要である」と、現行の枠組みの維持を求めた。

 こうした教育委員会サイドの見解に加え、学校現場の代表者からも、子供たちに毎日向かい合う教員の職務の特殊性を理由に、教員に労働時間の裁量を与える現行の仕組みを容認する発言が相次いだ。全国連合小学校長会会長の植村洋司委員(東京都中央区立久松小学校長)は「不登校、児童虐待など、家庭とのデリケートな連携や、関係機関とのケース会議が年々増加している。量的にも質的にも教師に求められるものが増大している」と多忙化する学校現場の状況を改めて説明。「どこまでが教師の職務で、どこからが職務でないのかを精緻に切り分けて考えることは大変難しい。職務を果たすことと自己研さんが学校現場では表裏一体であり、教師の職務の特殊性がある」と述べた。

 全日本中学校長会会長の齊藤正富委員(東京都文京区立音羽中学校長)は「教員の職務について精緻に区分けをすることは、中学校の校長にとっても、とても困難な課題」とした上で、「現場の教員は、自分が高度な専門職である教員としてふさわしいのかを絶えず考えている。そうした教員が学び続けられる環境を整えるために、報酬面とともに、研修のための時間を確実に確保する必要がある。その意味では、教員定数の改善に踏み込んで考えなければならない」と述べ、教員配置の増加を求めた。

労働界から残業手当の支払いを求める意見も

 一方、労働界からは、教職調整額の想定を超えた時間外労働時間については、公立学校の教員にも残業代を支払うべきだとの意見が出された。金子晃浩委員(連合副会長)は「国立大学の附属学校や私立の学校では、教員に労働基準法が適用されている。公立学校の教員にも労働基準法37条を適用して、所定勤務手当を超えた労働時間を時間外労働とカウントした上で、現状の教職調整額との整合性を検証するなど、給特法を抜本的に見直すことも検討すべきではないか」と述べた。

 給特法を巡っては、公立学校教員の時間外勤務に時間数に応じた残業代が支払われない枠組みになっていることから、学校現場で長時間労働を抑制するインセンティブが働かず、「定額働かせ放題」になっているといった批判が出ている。文科省はこの日に示した論点の中で、教職の魅力を向上させる観点から教員の処遇改善を検討する方向性を提示。委員による意見交換でも、給特法の枠組みを教員の時間外労働の問題に絡め、教員に残業代を支払うべきだとの意見を表明したのは、金子氏だけだった。

教職調整額4%「現在の勤務実態は想定を超えている」

 秋田喜代美委員(学習院大学教授)は、基本給の4%と定められている教職調整額の増額を求めた。「1971年の給特法制定時に定められた4%は、当時の勤務実態調査で教員の時間外労働が月8時間だったことを踏まえて決まった数字で、現在の教員の勤務実態は想定を超えている。教員の人材確保が必要ないま、具体的な数値を出して4%が妥当なのか議論すべきだ」と指摘。大学で教員養成に携わっている立場から「残念なことに、初任給の安さや給料面で教員を諦めていく学生や、『職場がブラックだ』としてせっかく資格を持ちながら教員を諦めていく学生をたくさん見ている」と述べ、教員の待遇改善や長時間労働の是正を進める必要性を強調した。

 青木栄一委員(東北大学大学院教授)は、民間企業から教員になる人材を増やす観点から「官民の間の就業制度の接続を意識することが大事。フルタイム・新卒採用・終身雇用を前提としないような給与制度の在り方を考えればいい。現行の教員の給料を少しアレンジすれば対応できるのではないか」と提案した。また、「学校には、学習指導要領の改訂時のように、全員にトレーニングが必要な期間が一定期間あるはず。そうした他律性の高い授業準備の業務には、一時的に非常勤講師を増やすこともあっていいのではないか」と指摘した。

授業持ちコマ数の上限設定で「定量的な業務削減」

 教員の働き方に詳しい澤田真由美委員(先生の幸せ研究所代表取締役)は、教員の長時間労働が十分に是正されない背景として、学校管理職のマネジメント能力の問題を指摘した。「ここ数年、働き方改革について民間の法整備がどんどん進んでいる中で、学校が取り残されている。特に、職員の命と健康を守る責任者である民間管理職と校長の意識の差が相対的に広がったと言わざるを得ない。教員には管理職にも線引きできないような業務が多いとはいえ、命の危険なラインを超えた職員の働きを容認する管理職をそのままにするわけにはいかない」と述べ、教員勤務実態調査で示されたように、依然として過労死ラインを超える長時間労働がなくならない現状とそれを容認している学校管理職の責任に注目するよう求めた。

 また、人材確保のためにも教員の給与水準を引き上げるとともに、今回決めた改革案をさらに数年後に見直すなど「息の長い改革」にする必要を指摘した。

 さらに、教員の職務の特殊性が指摘される中、「定量的な業務もある」として教員1人当たりの授業持ちコマ数を挙げ、「労務管理の面から教員1人当たりの授業持ちコマ数について、適切な上限といったものを国として示すべきだ。授業持ちコマ数が適切になれば、今の学校に圧倒的に足りていない子供と離れて集中できる時間ができ、教員同士の創造的な議論の時間が確保できる。これは教育の質の向上にもつながる」と議論を展開した。

 妹尾昌俊委員(ライフ&ワーク代表理事)は「処遇改善が必要だとするためには、2つのロジックがしっかりしていないと駄目だと思う。1つは、そもそも今、質の高い教師を確保できてないのか、という事実認識。2つ目には、その主たる原因として給与水準が影響している、という前提がある。この2つが本当に正しいのか、非常にぐらぐらしている」と問題意識を披露した。その上で「公立小学校の新卒の受験者は、近年はそれほど減っていない。小学校教員の出身大学が入りやすい学校になっていて、優秀な人材が逃げている可能性はあるが、確たる事実はない」と述べ、今後、政府内部や社会全体に教員の処遇改善が必要なことを納得してもらうために、理論武装をしっかりする必要があるとの見方を示した。

 また、「本当に最重点課題が、正規教員の処遇改善なのか。これは、ぜひ議論してほしい」と問題提起を行った。「今、教師不足と言われるのは、ほとんどが非常勤講師の不足。非正規雇用の教員の処遇の問題や、教員以外の教員業務支援員やスクールソーシャルワーカー(SSW)の処遇が非常に低いという問題もある」と述べ、正規教員の周囲にいる非正規雇用が抱える課題にも目を向けることを促した。

「働き方改革の集大成」

 会合の最後にあいさつした文科省の矢野和彦・初等中等教育局長は「教員の処遇の改善について、ある意味『関ヶ原』というか、2017年以来の働き方改革の議論を進めてきた中での集大成とも言えるような、非常に重要な議論だと認識している。最後は、学校の関係者が一致団結するということが一番大事だと考えている」と力を込め、委員に協力を求めた。

 中教審では、特別部会の議論を経て、4月ごろに答申をまとめる見通し。自民党は23年5月、政策提言「令和の教育人材確保実現プラン」として、月20時間程度の時間外勤務時間を想定して給特法の教職調整額を現行の4%から「少なくとも10%以上に増額」すると打ち出しており、中教審の答申を踏まえて政府と与党による検討が行われるとみられる。給特法の改正を見込んだ必要経費は、24年8月に文科省がまとめる25年度予算概算要求に計上される見通し。その後、財務省との予算折衝を経て24年12月に政府予算案がまとまり、その予算関連法案として給特法の改正案は25年春までに国会で成立するという、スケジュールが想定されている。

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