心理的安全性とは、集団の中で対人的な恐れを感じず、安心して発言や行動ができる「心理的な状態」を意味します。実は、学級集団のゴールを示すことや学級における行動規範を示すことは、心理的安全性を高める効果があります。学級集団が目指すべきゴールを共有することで、一人一人がゴールに合致した行動を取りやすくなるからです。
例えば、「互いの良さや頑張りを認め、高め合える学級にする」というゴールがあるなら、「失敗しても、挑戦した姿勢を認める」「頑張っている人を応援する」という行動が取りやすくなります。すると、「失敗しても、誰かから攻撃されることはない」「高い目標に挑戦しても、周りが応援してくれる」などと感じられる雰囲気が生まれます。つまり、対人的な恐れが減り、心理的安全性が生まれるのです。
行動規範を示すことも同じ効果があります。例えば、「友達の良さや頑張りに注目しよう」という行動規範を教師が示します。そして、その行動規範を学級集団で共有したとします。
「行動規範を学級集団で共有している」という実感を一人一人が持てば、「友達の短所や失敗には目をつぶり、むしろ良さや頑張りに注目して声掛けをする」という行動を取る方がよいという雰囲気ができてきます。こうして、望ましい行動規範を集団で共有させることで、対人的な恐れが減り、心理的安全性が生まれるのです。
さて、心理的安全性の確保の仕方は、他にもさまざまな方法があります。例えば、「いじめや差別は許されない」と教師が、「対人リスクをなくすルール」を宣言する方法があります。学級開きで力強く宣言するのですから、子どもは思います。「この学級では、いじめや差別につながる言動は控えよう」と。そして、そのルールが浸透することで、「いじめや差別につながる言動はしない」という雰囲気が生まれます。この新しく生まれた雰囲気に従って、子どもは自然と行動するようになります。
心理的安全性はもともと医療やビジネスの世界で広がってきた概念です。学校教育においても、徐々に心理的安全性の重要性が広がってきました。心理的安全性のない集団では、個々が成長のための行動をしにくくなることが分かっています。その結果、集団のパフォーマンスも、個々のパフォーマンスも悪くなってしまうのです。私たち教師は、心理的安全性を学級開きの早いうちから確保する意識を持つ必要があるのです。
参考文献
大前暁政(2023)『心理的安全性と学級経営』(東洋館出版社)