「先生、俺帰るわ」
タケシ君がランドセルを背負って現れました。まだ、中休みが始まったばかり。下校までは4時間ほどあります。話を聞くと、仲間とけんかをしてしまったことをきっかけに学校に居たくないと思ったそうです。昨日まで笑顔いっぱいで生活していたのに、表情はどんよりと曇り「こんなクラスは嫌だ」と言っています。「まぁまぁ」と取りあえず下校を食い止め、教室に戻しました。
自分が慌てて戻ると騒ぎになってしまうと思ったこと、また教室に戻る彼に寄り添っている他の児童の姿が見えたことから、私は所用を済ませてからゆったりと教室に戻ることにしました。
数分後、教室に向かうと、その途中に彼を囲んで4~5人の児童が座っていました。ユリさんが彼の肩をさすっています。昨日、悪口を言われて泣いてしまった時に、慰めてくれたタケシ君に「今度は自分が何かしたい」と思ったそうです。セイタ君は「自分も背中をさすってくれ」と、ユリさんにねだっています。ちゃかしているようですが、タケシ君だけを目立たせない彼なりの優しさなのでしょう。そして、その傍らにはけんか相手のショウ君の姿もあります。呼び出されたわけではなく、自分からやってきたそうです。
教室に戻ると数人の児童が私のもとに駆け寄って来ました。「先生、聞いた?先生は取りあえずここにいて。ユリたちに任せよう」と言います。あんまりたくさんの人が行くと騒ぎが大きくなると思い、教室で待つことにしたそうです。階段にいるメンバーの机の上には、次の時間の準備が置いてあります。きっと誰かが気を利かせてくれたのでしょう。
イライラを物にぶつけて壊してしまったり、仲間同士で大げんかをしたり、心ない言葉を浴びてやる気を失ってしまったりと、学校生活の中では瞬間的に「荒れかけて」しまうことが何度もあります。しかし、学級がうまくいっていれば、必ずその荒れを食い止め、元の姿に引き戻してくれようとする仲間の存在があります。
「学級の荒れに対応するアプローチ」というと、荒れた状況にどう対処するかということばかりに目が行きがちです。しかし、本当に荒れを食い止めてくれるのは、一緒に良い方向に進んでいこうとする仲間の存在です。そんな前向きな共同性や仲間とのつながりを築いていくことが、最も重要なのだと思います。
最後までお読みいただきき、誠にありがとうございました。(おわり)