第1回 忘れ物が多い小学生の背景

第1回 忘れ物が多い小学生の背景
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 小学生の保護者から「うちの子のランドセルの底には、学校からもらったプリントがぐちゃぐちゃになって入っている」なんて相談をよく受けます。私は福岡市在住の臨床心理士で、主にADHDの方の時間管理を専門にしてオンラインカウンセリングを提供しています。上記のような子どものことで、困り果てた保護者から相談を受けることが最近増えているのです。

 小学校低学年の子どもで、体操服や給食エプロンなどを家に忘れてきたり、プリントを出せなかったりする子どもは昔からいました。でも、多くの子どもは中学生を迎える頃までには、「体操服がないと、授業に出られなくて困るな。ちゃんと持っていこう」などと学習し、段取りを立てられるようになるものでした。

 しかし、それでも一部の子どもは、大学受験の書類であってもなくすことすらある状態で、高校生になります。保護者は必死に明日の着替えや持ち物の管理、スマホやゲームの制限、各種手続きまでフォローに回ってなんとか18歳を迎えるとしましょう。

 悲劇はその後始まります。晴れて大学生になっても、下宿先の電気代の自動引き落としの手続きを取っておらず、電気を止められてしまったり、大学で履修手続きに不備があって単位が足りずに留年もしくは退学になってしまったり、就職活動を先延ばして仕事に就けなかったりする話は珍しくありません。

 昔からこうした子どもたちは厳しく叱られてきました。しかし、痛い目にあっても繰り返してしまう一部の子どもたちが、年単位の失敗をして初めて、「あれ?何かおかしいぞ」と問題視されるようになります。

 この15年ほどで、日本でも知られるようになってきた大人のADHDがこの状態です。有病率は約5%です。診断はされていなくても、その傾向にある人はかなり多いと言われています。

 ADHDと言えば教室で歩き回る子どものイメージがあり、「大人になったら収まる」と思われていたのですが、最近では大人でも広く見られることが分かっています。こうした背景から、保護者の方から「わが子もADHDなのではないか?このままでは大人としてやっていけなさそうだ」という相談をお受けするのです。

 本連載では、ADHD傾向にある子どもたちの育ちをいかに支えるか、保護者や教育者にできることについて解説していきます。時間管理の専門家の立場としてだけでなく、中学生の子どもを持つ保護者の立場からも書いていきます。どうぞよろしくお願いします。

【プロフィール】

中島美鈴(なかしま・みすず) 1978年、福岡生まれ、臨床心理士。公認心理師。心理学博士(九州大学)。専門は時間管理とADHDの認知行動療法。独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などの勤務を経て、現在は中島心理相談所所長。他に、九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員および肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員を務める。

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