「わが家の朝は、毎日戦争です」
小学校低学年の保護者の方が、こう口にしました。子どもがなかなか起きず、やっと起きてもぼ~っとして身支度をしようとしない。朝食を食べるのも遅いので、「早く!早く!」と急かさないと遅刻しそうだということです。
それでも多くの子どもはそのうち、朝のペースをつかんで自分で支度ができるように成長しますが、大人になっても遅刻を繰り返す人たちが私の所へ相談に来ます。
「高校生の頃までは親がいたからなんとかなったけど、大学生になってからは一人暮らしのため、1限目の授業に出られなくて留年しました」
そんな話はよく聞きます。遅刻しないためには時刻通りに起床するだけでなく、モーニングルーティンのそれぞれに何分ずつかかるのかの正確な見積もり、効率的な順番の設定、ニュースに気を取られるなどの脱線を防ぐ集中力、朝の準備の進捗(しんちょく)を気にしながら必要に応じて優先順位の低いものを削るなどの調整力が必要になります。こうして文字にしてみると、「遅刻しない」ためにはこんなに高度なことをクリアしなければならないことが分かります。
本連載でこれまで述べてきた通り、これは「実行機能」と呼ばれる脳の最も高度な働きの一つです。これらが自然と身に付かない子どもの場合、一つずつ順に教えていくことが必要となります。具体的には次のようなやりとりをお勧めします。
小学校低学年のうちは、「この先3時間の計画」など長い見通しを持つことは難しいでしょうから、「10分ボックス作戦」がよいでしょう。
「帰宅して最初の10分間で何する?」
「ランドセルを置いて、手洗いとうがいかな」
「じゃあ次の10分間で何する?」
「ランドセルからプリント出しておいておやつを食べる」
「次の10分ボックスには何入れる?」
「宿題をするかな。算数のプリントね」
こんなふうに10分間でできそうな「やること」を四角のボックスの中に書き入れていくのです。終わったら裏返せるようなカードに書いておくと、なおよいでしょう。
「最初の10分で手を洗ったよ」と報告するたびに褒めてもらえたり、その都度小さなチョコレートでももらえたりすれば、子どもたちは喜んで取り組むでしょう。ポイントは、子どもと一緒に10分ボックスの中身を記入することです。保護者や先生が一方的に「こうしなさい」では、なかなか自分事になりません。こうした小さな積み重ねが、計画上手につながります。