給特法廃止後の公立学校を、もっと具体的に想像できないか(藤川大祐)

給特法廃止後の公立学校を、もっと具体的に想像できないか(藤川大祐)
【協賛企画】
広 告

教職調整額の増額以外に目に見えた改善策がない

 本紙電子版5月13日付で報じられているように、同日、中教審の「質の高い教師の確保特別部会」は、「審議のまとめ」を取りまとめた。注目された「教員の処遇改善」は、給特法の教職調整額の仕組み自体は変えずに、教職調整額を現在の4%から「少なくとも10%以上」に上げることが盛り込まれた。

 教職調整額が増額されることは処遇改善であるはずだが、この方向は強く批判されている。本紙Edubate欄でも実に「審議のまとめ」を「期待以下」とする投票が96%を占めている(5月22日現在)。

 「審議のまとめ」がこのように歓迎されていないのは、教職調整額の増額以外に目に見えた改善策がないことが大きいだろう。「学校における働き方改革の更なる加速化」として挙がっているのはこれまでの取り組みの延長にしか見えず、目に見えて教員の業務量を減らすような分かりやすい策がない。そんな策があるのかと言われそうだが、私は1年前、本欄で次の2点を提案している。

 (1) 年間授業時間数の削減

 年間35週となっている授業時間数を34週分あるいは33週分に減らす。

 (2) 教員の時間外・休日の部活動の原則禁止

 部活動は教員の勤務時間内の平日の放課後(17時ごろまで)しか行ってはいけないということを決める。それ以外の時間や土日・休日に部活動を行う場合には、給特法の教職調整額の提供範囲外とし、労働基準法が定める水準の時間外・休日手当を支給することとする。

 これだけでも、授業時間数が減り、中学校や高校などでは部活動による過酷な残業・休日出勤を止められるのである。このようにすぐできて、インパクトのある策が検討されなかったことは、誠に残念だ。

給特法を廃止した場合のシミュレーション

 また、そもそも給特法の廃止が真剣に検討されなかったことも、失望を大きくさせたと思われる。給特法廃止後の公立学校の在り方を具体的に想像するために、廃止後のシミュレーションを行うことくらい、やってみてはどうだったのだろうか。仮に給特法の廃止が決まったら、次のような手順が必要になるものと考えられる。

 (1)労働契約の更新と就業規則の改定

 各教育委員会が、教育との間の労働契約を見直し、就業規則も改定して、時間外労働に対して一定の手当を支給するようにする。

 (2)36(サブロク)協定の締結

 労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)を教育委員会と教員との間で締結し、労働基準監督署に届け出る。

 (3)給与制度の変更

 教育委員会が教員の給与制度を変更し、時間外労働手当や休日労働手当を含むものとする。また、これら手当に対応するための予算を確保する。

 (4)制度変更の周知

 教育委員会は教職員に対して、制度変更を周知する。

 上記の流れの中で、特に下記2点が重要と考えられる。

 第1に、(2)でどのような労使協定を結ぶかだ。労働基準法に従う(給特法がない)場合、時間外労働や休日労働については、労使間での協定(36協定)が必要であり、協定違反は罰則の対象となる。現在、公立学校の教員に時間が勤務を命じられるのは、次のいわゆる「超勤4項目」となっている(「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」)。

 イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務

 ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務

 ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務

 ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

 36協定を結ぶ際に、これら以外の項目(授業準備、進路指導業務、入試問題作成など)を含めるかどうかが論点となるだろう。この際、部活動指導に関する業務を入れることは、難しいのではないか。

 第2に、(3)の給与制度の変更に関して、時間外・休日の手当のための予算の確保が問題となるだろう。当然ながら現状の在校時間をもとにこれら手当の額を計算すれば、額は膨大なものとなる。教員の業務の多くが勤務時間内でかなりの程度終えられるように業務量を調整した上で、36協定に基づく時間外・休日勤務がどの程度になるかを算出し、予算を確保することとなる。

 このように、給特法廃止後のシミュレーションを行い、課題を洗い出し、解決に向けた検討を進めることが必要である。

国立大学附属学校の取り組みが参考にされなかった

 さらに、今回の「審議のまとめ」には残念な点がある。それは、国立大学附属学校の取り組みが、生かされていないことだ。

 「審議のまとめ」では、「国立学校や私立学校では時間外勤務手当の支払いがなされており、公立学校も対象とすべきであるとの指摘もある」とされながら、国立・私立学校と公立学校の違いが述べられ、公立学校における時間外勤務手当の支払いが否定されている。だが、国立・私立との比較に関する「審議のまとめ」の説明は、立田順一氏がnoteで指摘しているように、「出来レース」「結論ありき」と言われても仕方のないほど論理の破綻したものだ。

 全国の国立大学附属学校では、2004年の国立大学法人化によって給特法の対象から外れて以降、36協定の締結、変形労働時間制の導入、そして業務の見直しなどを行ってきた。対応が不十分な学校では労働基準監督署からの指摘を受け、未払いの時間外労働手当を教員に支給する事態に至っている。

 私が校長を務めた千葉大学教育学部附属中学校においては、各教員が勤務時間中に最低限必要な業務が遂行できるよう、時間割、学校行事、生徒の放課後の活動などを大胆に見直した。特に部活動については、平日は多くても週3回1時間ずつ、土日はどちらか1回3時間までを原則とし、大幅に活動時間を削減した。

 定期テストの問題作成や採点が必要な時期には、生徒を早く帰し会議を入れない日を設け、勤務時間に必要な作業を行えるようにした。その上で、進路指導関連業務や緊急の生徒指導など、時間外労働が不可避な部分については、校長が時間外労働を命じ、手当を支給している。このような形で手当を出すことについては、大学本部の理解も得ている。

 国立大学附属学校のこうした取り組みは、公立学校の業務改善のために大いに参考になるはずである。「審議のまとめ」で公立学校との差異ばかりが強調されてしまい、国立大学附属学校の取り組みが全く参考にされていないことが、残念でならない。

 そして、もう一つ残念な点がある。それは、文部科学省が報道に対して抗議したことである。文科省サイトに掲載された抗議文では、NHKが「定額働かせ放題ともいわれる枠組み自体は残ることになります」と報じたことについて、「一部の方々が用いる『“定額働かせ放題”の枠組み』と一面的に、教育界で定着しているかのように国民に誤解を与えるような表現で報じるもの」としている。

 政府が報道機関に圧力をかけるような抗議はあってはならない。そして、教員の労働状況の悪化を止められなかった自らの責任を顧みず、他者を責めるような態度は、何の利益ももたらさないはずである。文科省がこのような態度しか取れないことに、強い危機感を覚える。

広 告
広 告