第4回 支援教師の役割とイタリアの個別教育計画

第4回 支援教師の役割とイタリアの個別教育計画
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 イタリアの学校において、フルインクルーシブ教育の実践を支えているのが「支援教師(Insegnante di sostegno)」の存在である。支援教師とは、障害が認定された児童生徒のいるクラスに「加配」される教師のことである。イタリアでは教育・医療・福祉の各領域の専門職から成るチームを結成し、支援教師が彼らと一緒になって「個別教育計画(PEI)」を作成して、実際の支援に当たることになる。

 ところで注目すべきことは、近年になってイタリアでは、ICF(国際生活機能分類)の理念に沿った個別教育計画が活用されるようになったことである。ICFとは、2001年にWHO(世界保健機関)が採択した人間の「生活機能」と「障害」に関する世界共通の分類法である。障害は病気やけがによって直接引き起こされるとする従来の「医学モデル」に対して、ICFは「医学モデル」と「社会モデル」を統合したモデルとなっている。「社会モデル」とは、障害が生み出される一因を社会や環境に求めるもので、そうした社会や環境の改善あるいは克服を社会的な責務とする考え方である。

 このICFの理念に基づいて、イタリアの個別教育計画には対象の生徒が学ぶ際にマイナスの影響を及ぼす「阻害因子」は何か、プラスの影響を与える「促進因子」は何かを考え、それらを総合的に判断して教師たちが「インクルーシブな学習環境を構築する」にはどのような措置が必要となるかが記されている。クラスの環境やルールに障害のある生徒を適合させるのではなく、障害のある生徒を受け入れるために学校やクラスの側にどのような合理的配慮が必要かということが記されている。そして、こうした学習環境の調整に当たって、中心的な役割を担っているのが他でもない支援教師なのである。

 ICFの考え方に従えば、教育的ニーズを抱えた生徒一人一人に対して、彼らに合ったインクルーシブな環境を構築することが必要になる。だとすれば地域の学校で文字通りインクルーシブ教育を推進しようとするなら、障害児を含めて多様な子どもたちを受け入れる「地域の学校」の側に日々変革が迫られることになる。インクルーシブ教育は、まさしく地域の学校を抜本的に改革することから始まるが、加えておのおののクラスの学習環境の絶え間ない調整と共に進化し続けるべきものだと理解しておく必要があるだろう。

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