現在イタリアでは、障害の有無を問わず誰もが一緒に地域の学校で学ぶフルインクルーシブの教育が行われている。その礎が築かれた1970年代、イタリアの通常学校においてはどのような改革が行われたのか。
革命的と評される1977年の法律第517号で規定されたのは、「障害児のいるクラスの定員は最大で20人」ということだった。筆者は2023年の春から1年間のイタリア滞在中に、南は首都ローマから北はイタリア北東の国境の街トリエステまで、幼稚園から高校まで20校ほどの学校を訪問した。そして、数十に上るクラスで調査を実施したが、クラスの平均人数は17~23人ほどで、障害が認定された生徒が1クラスに1~2人は在籍するケースが大半を占めていた。
2021年のOECD加盟国の調査では、1クラス当たりの児童生徒数の平均は初等教育で約21人、中等教育で約23人となっている。日本の状況はというと、初等教育で約27人、中等教育で約32人となっており、中等教育段階の1クラスの人数の多さがOECD加盟国の中でも際立っている(日本のクラスの定員上限は小学校で35人、中学校以上で40人)。こうしたデータからも、日本の現状がいかに世界標準からかけ離れているかが分かるだろう。
同じく法律第517号で規定されたのが、障害児のいるクラスに配置される専門的な資格を有する「支援教師」の存在だった。加えて現在のイタリアの学校現場には、クラスに在籍する支援を要する生徒たちの実態に応じて、学校の外部機関である社会的協同組合から「教育士(Educatore)」や「アシスタント(Assistente)」といった専門職員が派遣されている。両者とも教員資格は持たないが、各教科の教師や支援教師と一緒に授業に参加する。教師と協力の下、教育士の任務は生徒たちの社会性の向上や人間関係づくりに資するためとされている。一方のアシスタントは、主として対象となる生徒の日常生活の自律支援やコミュニケーションの側面をサポートするためとされている。障害児のいるクラスには、各教科の教師、支援教師、そして教育士かアシスタントのいずれか1人、合わせて3人の指導者が配置される。これが、イタリアの学校の標準的なクラスである。
今日の世界の教育現場に照らすと、1970年代に断行されたイタリアの教育改革が、いかに先駆的かつ革新的だったかが分かる。インクルーシブ教育の推進の是非を問う以前に、「不登校」や「いじめ」の問題が深刻さを増している日本の教育現場においては、クラスの児童生徒数の小規模化と複数の指導者の配置は、何にもまして真っ先に実現されるべき喫緊の改革だと言えるだろう。