第10回 制度の外側から日本の教育を問い直す

第10回 制度の外側から日本の教育を問い直す
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 2023年11月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)は半世紀ぶりに教育勧告を改訂し、加盟国194カ国の全会一致で「平和、人権および持続可能な開発のための教育勧告」を採択した。その名称が示すように、これは平和、人権、そして持続可能な開発といった世界的な課題を解決するための教育の目標や方向性を示した国際文書である。

 この勧告には「14の主導原則」が掲げられている。そこでは、「教育が社会をつくる」という明確な認識の下、より良い社会を形成していくための教育原則が取り上げられている。試しに、ここで示されている諸原則の中から、インクルーシブ教育に深く関わる語句を抜き出してみると、「人権」「反差別」「インクルージョン」「共生的関係」「教育への公平なアクセス」「文化の多様性」「国際法で保障された人権の尊重」といったものがある。

 本連載では、イタリアのインクーシブ教育の理念、制度、実践を紹介しながら、日本の教育の現状について考えてきた。先述したユネスコの教育勧告を吟味して改めて痛感するのは、世界の教育の潮流と日本の現状とがいかに乖離(かいり)しているかということである。世界が推進するインクルーシブ教育の前提となる哲学、理念、認識が、現状の日本の教育界では全く共有されていないと思われる。本連載でも言及してきたように、日本における人権や差別意識の希薄さ、教育におけるインクルージョン、共生的関係性、文化的な多様性の軽視、国際法を順守する意識の欠如といったものがその背景にある。

 日本の教育をつくり上げている理念や制度の内側にとどまったままでは、もはやこの国が抱えている根本的な難問や課題を相対化し、それらを可視化し、克服していくことは困難であろう。この際、私たち自身が所属している制度の外側に身を置き直し、一人一人が法の下に平等で同一の権利を有しているという原理原則に立ち返り、世界の国々が依拠している国際条約や勧告(例えば障害者権利条約、子どもの権利条約、ユネスコの教育勧告)と真摯(しんし)に向き合い、「教育とは何か」「学校とはどのような場か」、そして「なぜインクルーシブ教育なのか」といった問いに本格的に向き合う必要がある。そして、こうした根源的な問いの地平から得られた回答に加えて、インクルーシブ教育をこの日本において推進するためには、イタリアをはじめとしたインクルーシブ教育の先進国の具体的な事例から深く学びつつ、そこに見いだされた理念、制度、教育的実践をどのように日本的な文脈に取り入れ日本の現状を変革していけるか、そのことを地道に考えてみる以外に道はないであろう。(おわり)

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