第5回 学校と子どもの成長~親のレジリエンスの視点から~

第5回 学校と子どもの成長~親のレジリエンスの視点から~
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 筆者が行った研究では、学齢期の重症心身障害児を育てる母親が「子どもが成長する姿を捉える体験」は、最も生き生きと語られる内容の一つであり、重要な意味を持っていた。この体験は、学校の先生方との関わりを中心に語られることが非常に多い。

 Aさんは、保育園に週1回午前中のみ通っていた。口から食事を取るのが難しく、経管栄養を必要としていた。しかし、特別支援学校に入学してから次第に食べられるようになり「先生方が食事の量やスピード、食べる姿勢などを工夫してくれたから」と、その喜びを語っていた。

 前述した調査で「育児の喜びや意欲を見いだす体験」は、母親のレジリエンスにも関係する重要な体験であった。Bさんの母親からは、担任の先生に「子どもが笑っている」ことを教えてもらい、何度も励ましてもらった体験が語られた。出生時に脳の大半にダメージを受けたCさんの母親は、子どもには自分で排尿する機能が残っていないと思っていたのに、担任の関わりによって「トイレでおしっこができる」ようになった体験を語っていた。「Cさんはデリケートだから、しばらくそっとしておいて、離れて」と担任と陰から見守った体験は感動的だった。Dさんの母親は、「はい・いいえ」の意思を表出できるようになった体験を語った。「Dさんはできるから、よく分かっているから、この後いろいろな人と関わるときに必要なスキルだから、覚えていこう」と、担任が母親を元気づけてくれたという。

 学校という場で、母親たちが「思いもよらない」「想像もしていない」ことを先生が意図して関わってくれたことの驚きと感激は、母親の育児体験で非常に大きな意味を持っていた。このことは、母親が育児への力を得るとともに、アイデンティティーを見いだすことにもつながっていった。特に障がいのある子どもの場合、子どもの微細な変化を捉えることが難しく、母親は子どもの反応の変化を期待しないことにより自身の落胆が大きくならないように対処している場合が多かった。

 母親が子どもの内面的成長に気付く時期や内容は、置かれた環境や状況によって大きく左右された。母親が子どもの内面的成長に気付くための要素として、①子どもの身体的安定②子どもに関わる専門職への信頼と安心③母親の社会とのつながりもしくは関心の高まり④仲間の存在⑤母親自身が癒される体験⑥母親としてのアイデンティティー――が挙げられ、多面的なアプローチが重要であった。さらに、このプロセスの中では、母親自身が子どもの状況に気付き、意味付けることが求められるため、関係者からのアプローチが過度な押し付けにならない配慮も求められる。

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