前回述べたように、障がい児を育てる母親にとって、「育児の喜びや意欲を見いだす体験」は、育児への意欲を高め、育児の方策を見いだす上で重要である。子どもが笑ったことや反応を読み取ったときの感動、親にしかできないことを発見したときの感激は、母親の育児の支えとなっている。
子どもを育てる過程を経て、多くの親が「ケアする立場」としてではなく、「親」としての自分自身を認識している。このことは、介護負担の軽減だけに着目するのではなく、子育てを基軸に親としての力そのものを高めるような支援が求められていることを意味する。
親は、子どもの成長を捉える自分なりの視点を持っている。Bさんは、「目が見えない分、聞く力が成長している」と語り、Hさんは「気管切開を行ったことで呼吸が楽になり、感じる力が成長してきた。こんなに大変な思いをして大きくなったのだからこれから先もこの子なら乗り越えてくれると信じている」と語っている。こうして親自身が子どもの反応に気付いて解釈し、意味付けられることが重要と考える。
一方、Dさんは「今の状態が幸せ」と言ったことに対して、「この子の状態は幸せではない」と医師にコメントされ、ショックを受けた体験を語っていた。医師は子どもの状態を述べたのかもしれないが、親にとっては自分自身で意味付けたことを否定され、傷つく体験となった。一方的な価値観で関わることがないよう切に願う。
近年では父親の育児参加の機会が増えている。しかし、各調査からはいまだ母親の育児の比重が大きい。障がい児の育児では医療機関の受診も頻繁で、学校や関係機関との連絡調整や送迎、利用前の事前の打ち合わせなど、相当の時間を要する。
筆者の行った調査では、父親は妻の育児を見ながら父親としての在り方を模索し、妻と協働して子どもの養育姿勢をつくっていた。父親は日々の生活を一手に担う母親とは異なり、将来的視点で課題を捉え、育児の方策を模索していた。
2023年の調査では、一般男性の離職率60%に比べ、障がい児の父親は40%程度と低いことが報告されている。また、平均所得が一般家庭に比べて低いことも報告されている。これらのことから、障がい児の父親は生計を立てる役割を担うことが多いため、容易に離職できない状況が推察される。その結果、育児から遠ざかってしまう状況が生じやすいため、家族全体で協働できるように、必要に応じて家族内の役割を補完できるようなサポートが求められる。また、母親が主たる生計を立てる家族やシングルで育児を担っている家族も増えており、家族の状況に応じた対応が求められる。