医療的ケア児支援法は、保育所や学校への看護師の配置、支援拠点の設置などの対応を国や自治体の責務とした。また、家族の離職の防止に資することも目的の一つとしている。障がい児の親は築いていたキャリアを手放し、就労を諦めざるを得ない実情がある。しかし、就労の機会を得ることを願っている親は多く、2020年の実態調査では、希望する形態で仕事に就きたいと回答した親は88%だった。しかし、実際にそれが行えているのは7.0%で、ケアを担う親の就労が非常に困難であることが分かる。
厚労省の第2回障害児通所支援の在り方に関する検討会によると、「国民生活基礎調査」で末子が6歳以上の手助けや見守りが必要な児童の母親の就業率は19年時点で68%であり、同年代の母親の79%よりも低い。また、1世帯当たりの平均所得金額は、児童のいる世帯では745万9000円だが、障がい児の親の場合は550万円未満が54.1%、550万円以上750万円未満が20.8%、750万円以上は22.7%と報告されている※。世帯収入にはさまざまな要因が関連していると推測されるが、共働きが主流となった昨今、母親が未就労であったり母親の就労が抑制されたりしていることが影響している可能性は高い。
看護師であるAさんは、「子どもと家族が生きやすい社会にはまだ遠い」と語る。子どもは先天性心疾患で、乳幼児期は呼吸をサポートする医療的ケアを必要としていた。Aさんは仕事を離れてケアに集中し、成長して呼吸器が外れたのを機に復職を目指した。しかし、特別支援学校に通う子どもは登校に付き添いが必要であるため働けるのは朝10時以降で、働ける時間帯の求人はほとんどなかったという。
また、Gさんは実働時間を確保するため、朝5時から7時まで勤務し、一度自宅に戻って子どもの送迎をするなど24時間シフト制の中で細切れに就労を行っていた。障がい児の親の就労については、企業側にも多様な働き方の選択ができるように期待したい。筆者の調査結果では、重度障がい児の母親のレジリエンスに、就労が影響しており、このことは、就労が母親のメンタルヘルスに寄与していることを示唆するものである。
女性活躍、男女共同参画社会推進が掲げられてはいるが、障がい児の母親に対しては、子どもの障害に配慮した支援策が確立されていない。
一方で、子どもの体調不良や母子分離による精神的な不安によるパニック、自傷行為などに直面する学校や保育所などの現場から、「親の就労のために子どもを預かる場ではない」いう声を聴くことが多くなった印象がある。段階的に母子分離ができるように、幼児期から十分な時間を設けられるよう、障がい児の親の就労を柔軟に支援する体制づくりが求められている。
※美浦幸子(2021)「障がい児の母親の就労状況と課題」(上)」『厚生福祉6686号』 昭和女子大学現代ビジネス研究所