働きやすさと働きがいの両立 特別部会が答申案を了承

働きやすさと働きがいの両立 特別部会が答申案を了承
答申案の取りまとめに合意した中教審特別部会=オンラインで取材
【協賛企画】
広 告

 中教審の「質の高い教師の確保特別部会」は7月26日、第14回会合を開き、教職調整額を10%以上に引き上げることや、「新たな職」の創設、小学校中学年における教科担任制の実施、学校の働き方改革の加速などを一体的に推進する方針をまとめた中教審としての答申案を取りまとめた。5月に示された「審議のまとめ」をベースにしたもので、「全ての子供たちへのよりよい教育の実現を目指した、学校における『働きやすさ』と『働きがい』の両立に向けて」という副題が付けられた。6月に実施された「審議のまとめ」に対するパブリックコメントには1万8000件を超える意見が集まり、答申案では新たに、プール施設の管理で教員の負担軽減をしていく必要性などが盛り込まれた。答申案の取りまとめに合わせ、文部科学省では答申案で示された施策の実施スケジュールを整理した工程表のイメージ案を示した。

 答申案は昨年5月に中教審に諮問された「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を受けて、初等中等教育分科会に設けられた特別部会で議論されてきたもので、5月には、これまでの議論を整理した「審議のまとめ」が出されていた。

 「審議のまとめ」では、学校における働き方改革の推進、学校の指導・運営体制の充実、教員の処遇改善を3本柱として一体的・総合的に進め、教職の魅力向上や、教職を通じて学び続けることのできる環境整備を進めるとした。

 具体的には、2019年のいわゆる「学校における働き方改革答申」で示された「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づく業務の適正化の徹底や、全ての教育委員会での教員の在校等時間の把握結果の公表を推進。また、小学校中学年における教科担任制の実施や生徒指導担当教員の全中学校への配置、学校の組織的・機動的なマネジメント体制の構築に向けた「新しい職」の創設などを盛り込み、教員の業務負担の軽減を進めるとともに、将来的には、教員の平均の時間外在校等時間を月20時間程度に縮減することを目標に掲げた。

 一方で、教員の処遇改善では、教職調整額を少なくとも10%以上に引き上げ、「新たな職」に応じた新たな級を創設。学級担任への義務教育等教員特別手当の加算、管理職手当の改善などを打ち出した。

 この「審議のまとめ」が出たことを受けて、6月14~28日に行われたパブリックコメントでは、1万8354件に上る意見が集まった。その意見を踏まえ、答申案では、近年問題になっているプール施設の教員による管理について、「学校・教師が担う業務に係る3分類」では、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」に該当し、教員の負担を軽減するために指定管理者制度を活用したり、民間事業者へ委託したりするなどの方策を検討するという文言が新たに加えられたほか、今後の検討が期待される事項として、「スポーツ・文化芸術活動に継続的に親しむ機会の確保に向けた、地域の環境整備の中での部活動改革の在り方」の項目が追加された。

 合わせて、これまでの議論で委員から要望のあった、各施策のスケジュールを整理した工程表のイメージ案も示され、答申が出ると間もなく、教職調整額の引き上げなどを盛り込んだ給特法改正案や「新しい職」の検討が行われることが明記された。

工程表のイメージ案
工程表のイメージ案

 この日の議論では、副題について秋田喜代美委員(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)が「働きやすさと働きがいを実現するために私たちはどういう理念で考えたかを考えると、(案の)『学校における』という言葉よりも、可能であれば『専門職としての教師の「働きやすさ」と「働きがい」の両立を目指して』というような(別案を提案したい)。専門職としての教師の在り方とは何かということで、仕事の3分類を考え、給特法も教師の自律的な専門家としての在り方と関連付けて、われわれは考えてきた」と、専門職としての教師の視点を入れた副題を提案した。

 また、1万8000件を超えるパブリックコメントの活用について、西村美香臨時委員(成蹊大学法学部教授)は「(パブリックコメントの)意見の中には誤解に基づくようなものも多かったように思うので、誤解を解くための努力も継続した方がよいと思っている。すでにさまざまな広報活動をしているが、例えばパブリックコメントで誤解があるかなと思われる意見については、答申案の考え方を説明するか、意見へのお礼とともに『こうした資料もご覧ください』といった形で、作成した説明資料のリンクを貼ってもいいのではないか。行政手続法のパブリックコメントは多かった意見には府省の考え方を回答することになっているので、今回は任意に実施したものとはいえ、そうした回答を期待する向きもあるかもしれないので、可能であればご検討いただきたい」と注文した。

 工程表について、提案者の一人である金子晃浩委員(日本労働組合総連合会副会長、全日本自動車産業労働組合総連合会会長)は「(工程表に)あえて加えて申し上げると、さらに実現可能性を高めていくためにも、時間外在校等時間の削減目標が20時間と明記されたので、ここに向けた段階的な削減時間をさらに書いていただければ、より実効性が高まるのではないか」と指摘した。

 この日の特別部会で、答申案は大筋で了承された。今後、初等中等教育分科会に上げられ、近日中に答申される見込み。

 貞廣斎子部会長(千葉大学副学長・教育学部教授)は「本特別部会の結論としては、まずとにかく3本柱の一体的・総合的な推進によって、先生方が高度専門職としてより働きやすく、働きがいを持っていただくという結論を得た。これはゴールではなく新たなスタートだし、ここで会議は終わるが、(改革自体が)終わりというわけではなく、少なくとも答申案に記載された施策が実現することによって、子どもたちのよりよい教育の実現に向けて、学校における働きやすさと働きがいの両立がなされて、教師を取り巻く環境整備が大きく前進すると大いに期待している」と強調した。

広 告
広 告