第5回 合理的配慮とペアになるもの

第5回 合理的配慮とペアになるもの
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 「黒板を写すのが苦手で、合理的配慮で黒板の写真を撮らせてほしいと言われて…。必要ならやりますけど、それらしい診断(筆者注:LDなどの学習障害の文言と理解)がないと学校としても周りに説明を求められたときに答えられなくて困ってしまいますよね。他の子どもたちにずるいと言われてしまいますから」

 2016(平成28)年4月に施行された、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)の第7条に合理的配慮の提供に関する記述があります。これは、本人から社会的障壁の除去の申し出があった場合に、それが権利侵害にならないように合理的な調整をしなければならないというものです。

 学校で合理的配慮の単語が出てくると、それと同時に「周りの子どもたちへの説明」という言葉が出てきます。あたかもペアであるかのように…。

 合理的配慮は、「それらしい診断に基づき」「周囲に説明をしながら」「本人にのみ」提供しなければならないものなのでしょうか。

 前回、「社会モデル」について触れましたが、障害者差別解消法に書かれている「社会的障壁」とは、「少数派にとって使いにくい仕組みがあるからこそ、それが障壁になっている」ということであり、まさに社会モデルに基づく考え方です。

 まずやらないといけないことは、仕組み自体を誰もが使いやすいものにつくり変えることです。これを「基礎的環境整備」と言います。例えば、「建物にエレベーターやスロープを付ける」「その導線が極端な遠回りにならないようにする」などが考えられます。そうすることで、車いすに乗っている人がその場所を訪れたとしても、車いすの使用が理由で移動に過度な制限がかからなくなり、車いすを利用していない人と同じように移動する権利を獲得できます。

 このように、さまざまな人が使うことができる状況をあらかじめつくっておくことで、基本的な障壁を取り除くことができるのです。その上で、個々のニーズ(不足していることや理想とする姿)に対して、権利侵害にならない環境を整えていくことが「合理的配慮」であり、基礎的環境整備があっても失ったままの権利を回復させるための調整のことなのです。

 「合理的配慮」とペアになる言葉は、実は「基礎的環境整備」なのです。社会モデルの考え方を持てないまま「合理的配慮」を考えると、先の先生のような考えにとらわれ、柔軟な考えが持てなくなるのではないでしょうか。

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