人には本能的に「所属欲求」があります。誰かとつながり、集団に属していたいと願う気持ちです。進化の観点から見れば、集団に属することは生存率を高めるために重要です。人間は身体的には弱い存在であるため、仲間と協力することで危険を回避し、食料を確保し、生き延びてきたのです。
このため、仲間外れにされることは、本能的に恐れや不安を引き起こします。仲間外れを嫌がる感情は、人間が集団にとどまろうと努力する動機付けになります。言い換えれば、仲間外れを恐れる気持ちは、人間が生き延びるための仕組みとして遺伝的に組み込まれている自然な感情なのです。
しかし、恐れが過度になると、日常生活に悪影響を及ぼします。過剰に恐れることで、一歩踏み出す勇気を失ったり、自分らしい行動ができなくなったり、意思決定に支障を来したりする場合があります。その結果、心が休まらず、ストレスを抱え込んでしまうのです。
一方で、仲間外れを全く恐れずに自己中心的な行動を取るのも望ましくありません。また、恐れという感情は簡単に消し去れるものではなく、コントロールが難しい場合もあるでしょう。そのため、そうした感情が生じたときにどのように受け止めるかを学ぶことが重要です。
仲間外れへの恐れを和らげるためには、まず自分自身を肯定する習慣を身に付けましょう。「大丈夫、自分はすてきなんだ」と心の中で自分に語り掛けることが効果的です。人間は自分の言葉に心や体が影響されるため、ポジティブな言葉を使うことで、気持ちを前向きに変えることができます。一方で、否定的な考えにとらわれると、気分がどんどん悪い方向に向かってしまうため、可能な限り悪い方向に考えないよう心掛けることが大切です。もともとネガティブ思考の人が、無理にポジティブ・シンキングをしようとするともっとネガティブになってしまうことも研究で指摘されています。ですので、少なくともネガティブな言葉を使わないようにするだけでもいいでしょう。
どうしても不安や恐怖を拭い切れない場合は、仲間が喜ぶことを実践してみましょう。他人を喜ばせる行動を取ると、私たちの脳はポジティブな感情を感じるようにできています。また、何かに集中して取り組むと、脳の感情をつかさどる部分の活動が抑えられ、不安が和らぐ効果もあります。
さらに、他人に親切な行動を取ると、「好意の返報性」が働きます。これは、自分によくしてくれる人には、自分も親切にしたくなるという心理です。この効果により、お互いに気遣い合う関係が生まれ、良好な仲間関係が築かれます。結果として、「一緒にいたい」という気持ちが双方に生まれ、居心地の良い環境をつくり出すことができるのです。
教師としては、生徒の仲間外れに対する恐れを適切に受け止め、健全な仲間関係を築けるようサポートすることが求められます。生徒が自分を肯定する力を育み、他者との関わりの中でポジティブな行動を取り、前向きに成長できるような指導と環境づくりを意識してみるようにしたいものです。