第3回 不適切指導をなくしていきたい

第3回 不適切指導をなくしていきたい
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 「指導死ゼロは基本です」

 2022年9月15日、永岡桂子文部科学大臣(当時)は、指導死遺族と面談した際に、こう話しました。

 「指導死」は、教員の不適切な指導がきっかけとなった子どもの自殺のことを指す言葉として、現在は遺族や研究者、メディアの中で使われています。遺族が作った造語で、こう名付けることにより、問題を表に出したことになります。

 しかし、教育行政として定義があるわけではありません。そのため、文部科学省では「指導死」という言葉を行政文書の中では使っていません。大臣の発言として扱われたのは異例のことでした。永岡元文科相は翌日の定例会見で、「不適切な指導等による児童生徒の自殺をゼロにしなくてはならない」と、指導死という言葉は使わなかったものの、決意を示しました。

 こうした大臣発言がされた背景としては、教職員向けの生徒指導の基本書とされる「生徒指導提要」の改訂があります。改訂前の「生徒指導提要」(旧版)には「体罰の禁止」という項目がありましたが、それ以外は生徒指導が適切に行われることを前提に作られていました。しかし、旧版が作成されて以降も、「指導死」は生じていました。裁判になったり、調査委員会が設置されたりすることもありました。

 こうした状況の中で、「生徒指導提要」の改訂をすることになります。弟を指導死で亡くしたはるかさん(共同発起人)をはじめとする遺族が「安全な生徒指導を考える会」を作りました。改訂議論に、当事者である遺族の意見を反映してもらうことが目的で、要望書を提出したのです。

 「不適切指導で実際に命を落とすことがあると知っていただくために、要望書を文科省に手渡ししたいと考えました。改訂版に『不適切な指導』が入ったのは、文科省としても『不適切な指導』をなくしていきたい気持ちがあったのだろうと思います。生徒指導は必要だと思っていますし、安全にできる方法があると信じています」

 文科省が当事者団体の意見も踏まえた改訂を行い、「不適切な指導」という認識が取り入れられたことは、とても大きな変化だと言えます。

 改訂版では、こう書かれています。

 「たとえ身体的な侵害や、肉体的苦痛を与える行為でなくても、いたずらに注意や過度な叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感を高め、自信や意欲を喪失させるなど、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながりかねません」

 「教職員による不適切な指導等が不登校や自殺のきっかけになる場合もあることから、体罰や不適切な言動等が、部活動を含めた学校生活全体において、いかなる児童生徒に対しても決して許されないことに留意する必要があります」

 多くの人にとって、体罰が児童生徒を苦しめかねないことはイメージできます。一方、不適切な指導については、文科省も現実を把握しようとすることを意味するのではないでしょうか。こうした指摘が現場の教職員に意識付けされることが必要です。

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