フリーライター・ノンフィクション作家
不適切な指導をきっかけに自殺した子どもの遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」は2023年10月30日、青山周平・文科副大臣(当時)と面談しました。子どもの自殺の原因について、依然として6割前後が「不明」となっている現状から、「生徒指導提要」の改訂を受けて、「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」の周知徹底と、指針の見直しを要望しました。
文部科学省が毎年集計している「公立学校教職員の人事行政状況調査」の「体罰等の実態把握について」において、2024年12月公表の調査結果で初めて「不適切指導」の詳細が明らかになりました。調査結果を見ると、処分された教職員の数や対象の不適切指導の容態などが分かります。指導死の遺族らでつくる「安全な生徒指導を考える会」が実態調査を要望していましたが、その反映とも言えます。
2012年10月29日午後7時20分ごろ、広島県東広島市内の公園で市立中2年の男子生徒が見つかり、病院で死亡が確認されました。この問題を巡って、遺族は東広島市に対し、生徒が自殺したのは教師の不適切な指導が原因であるとして損害賠償を求めました。そして23年3月3日、「威圧的指導」や「暴力的指導」が認められ、広島地裁で和解が成立しました。
児童生徒が自殺したとき、学校は初動調査をすることになっています。文部科学省が定めた「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」によるものです。2006年に自殺対策基本法が成立したのを受け、08年3月から「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」で審議され、作成されたものです。その後、13年6月に成立した「いじめ防止対策推進法」も踏まえ、14年7月に「指針」が定められました。
子どもが自殺したとき、遺族は自殺の背景を知りたいと考えます。しかし、指導死だった場合、学校や教育委員会は、きっかけになった生徒指導について隠したり、矮小(わいしょう)化したり、「指導は適切だった」と説明したりすることがあります。指導当日に亡くなることも多く、遺族が事情を知る手段は限られます。
「不適切な指導」は、「生徒指導提要」改訂版に掲載されました。実は文部科学省が改訂前から、自殺との関係を意識していたと言えるものがありました。「生徒指導提要」の注釈にも取り上げられていますが、「池田町における自殺事案を踏まえた生徒指導上の留意事項について」という通知です。
「生徒指導提要」の改訂版では、不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになる場合があることを文部科学省が初めて記しました。子どもの自殺が増加する中で、生徒指導が自殺の背景にあることを初めて認めたと言っても過言ではないでしょう。
「指導死ゼロは基本です」 2022年9月15日、永岡桂子文部科学大臣(当時)は、指導死遺族と面談した際に、こう話しました。
生徒指導をきっかけにした、あるいは生徒指導の背景にある自殺は「指導死」と呼ばれます。コピーライターの大貫隆志さんが2007年9月26日、裁判支援を通じ、同じ経験をした遺族との話し合いの中で作った言葉でした。のちに、大貫さんらは「『指導死』親の会」の共同代表になりました。
子どもの自殺について、私は1998年ごろから取材をしてきました。偶然ですが、この年から日本の年間自殺者が3万人を超えていました。この当時の自殺者数増加の原因は、バブル経済崩壊による不景気で中高年の自殺者が増えたためです。当時の10代後半の自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)は、1990年に比べてほぼ倍になっていました。子どもの自殺の背景としては、虐待などの家族問題、いじめや友人関係の学校問題を抱えている場合が多く指摘されていました。
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