「生徒指導提要」の改訂版では、不適切な指導が不登校や自殺のきっかけになる場合があることを文部科学省が初めて記しました。子どもの自殺が増加する中で、生徒指導が自殺の背景にあることを初めて認めたと言っても過言ではないでしょう。
改訂版では「不適切な指導と考えられ得る例」として次の7つの指導を挙げています。
①大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
②児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
③組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
④殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
⑤児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
⑥他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
⑦指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。
これらの例は、文部科学省と「安全な生徒指導を考える会」との話し合いの中で生まれました。例えば、宿題を忘れたことを他の生徒の前で叱責(しっせき)するといった場合がそれに当たります。
鹿児島市の市立中学校3年の男子生徒が夏休みの宿題を忘れました。そのため、担任の女性教諭が、他の生徒がいる教室で叱責しました。さらには職員室で、他の教職員がいる前で大きな声で怒鳴りました。男子生徒はもともとこの女性教諭に対し、「担任を変えてほしい」と思うほど、嫌がっていました。担任は「その日」の提出にこだわりました。そのため、男子生徒に宿題を持って来させようとしました。悩んだ生徒は、自宅で一人きりになる中で、瞬間的に自殺行動を取りました。母親は帰宅後、亡くなっていた子どもの姿を見つけました。
この生徒のことを考えると、「大声で怒鳴る」や「言い分を聞かず」のほか、「一人で帰らせる」という項目も当てはまっています。しかも、このクラスでは、合唱コンクールのために、早めに登校させるという独自の学級経営もありました。
遺族は、担任教師の生徒指導がなかったら、生徒は自殺をしないで済んだのではないかと考え、現在、裁判中です。
「子どもの自殺が最多となっている今、『不適切指導をなくしたい』『指導死は防げる』という思いで提訴いたしました。司法に正しい判断をしていただき、先生も子どもも守れるように教育行政が変わっていくことを願っています」