子どもが自殺したとき、遺族は自殺の背景を知りたいと考えます。しかし、指導死だった場合、学校や教育委員会は、きっかけになった生徒指導について隠したり、矮小(わいしょう)化したり、「指導は適切だった」と説明したりすることがあります。指導当日に亡くなることも多く、遺族が事情を知る手段は限られます。
「調査指針」があることをほとんどの指導死遺族は知らされません。そんな中、ごく一部の遺族が、エネルギーや知識を駆使し、直後から学校と交渉をしたり、弁護士を探したりしています。また、亡くなった子どもへの生徒指導に関する個人情報開示請求をしたり、調査委員会の設置を要求したりしています。
そうした手続きには多大な時間と労力を費やすため、遺族のケアが十分にされないこともあります。また、きょうだいの遺族はケアの対象やメディアの取材対象から漏れることがあります。「気持ちを語りたい」と考えているきょうだいへの対応は課題になります。震災遺児の取材でもそうでしたが、語ることの是非もあります。
「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの一人、はるかさん(当時高3)は2013年3月、北海道立高校に通う弟の悠太さん(当時高1、享年16 )を亡くしました。学校の帰り道での自殺でした。遺族は、前日の部活動顧問による不適切な指導が影響しているのではないかと、詳細な調査を求めました。
学校側は初期調査のみで「指導は適切」と結論付けました。そのため裁判となり、控訴審では顧問の指導は「不適切」で「自殺の契機となった」と評価されました。はるかさんは裁判中も母親を支えました。
「自殺前日、弟は家に帰って、何があったのか家族に話してくれたため、顧問からの不適切な指導を知ることができました。しかし、亡くなる当日、『行かないと部活を辞めさせられる』と言い、学校へ行きました。子どもが自殺すると親のせいにする声もありますが、学校・部活動での所属の欲求を家族が満たすことはできません。一緒に育った私だからこそ、親のせいではないと分かります。泣き寝入りをしてしまう親だったら、弟は今も『悪い子』のレッテルを貼られたままでした。一方、何年も過酷な状況に置かれ、難しい書類に囲まれる日々で、家族団らんの雰囲気を出せなくなりました」
判決後も道教委は「自殺の原因は不明」とし、不適切な指導があったことを認めていません。
「学校や社会が子どもの命に真摯に向き合う姿勢を見せてくれることが、一番ほしかった支援でした。しかし、18歳だった私は、真相と向き合おうとしない学校の姿勢を見て、社会への信頼が崩れました。大人にとって子どもの命はこの程度の価値なのかと思いました。弟を大切に思う気持ちまで踏みにじられたように感じたし、自分が死んでもこのような扱いなのだと知るのもつらかったです」