児童生徒が自殺したとき、学校は初動調査をすることになっています。文部科学省が定めた「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」によるものです。2006年に自殺対策基本法が成立したのを受け、08年3月から「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」で審議され、作成されたものです。その後、13年6月に成立した「いじめ防止対策推進法」も踏まえ、14年7月に「指針」が定められました。
「指針」では初期の調査を「基本調査」と呼んでいます。学校生活に関する要素があった場合は、より詳しい「詳細調査」に移行します。そこには「教職員からの指導」も含まれています。不適切な指導による自殺(指導死)の場合も対象です。しかし、「指導死」の場合は、いくつかのハードルがあります。
指導死に限らないことですが、「指針」の存在を学校や教育委員会が知らないこともあります。19年4月、熊本市立中学に通う1年生の男子生徒(当時13歳)が自殺したとき、市教委は指針の存在を知りませんでした。遺族は「小学6年生当時の担任の言動と自殺が関係している」と考えました。しかし、市教委の初動が遅れ、基本調査の報告書が遺族に提出されたのは1年後でした。
「当時は、『すぐに調査が始まるだろう』と思っていました。調査をお願いする文書を市教委に渡し、また、校長にアンケートの実施を口頭でお願いしました。しかし、指針にあるような基本調査はなかなか実施されませんでした。遅れることで関係者、特に子どもたちの記憶が曖昧になり、教室で実際に起こっていたことが証明されなくなることが心配で恐ろしかったです。直後に基本調査が実施されなかったことで、市教委や学校への不信感も生まれました」
いじめに起因する疑いがある場合、法律に従い、重大事態調査が行われます。この段階でも、スムーズな設置には至らないこともあります。学校や教育委員会が法の趣旨・解釈を理解していない場合、多大な労力を費やします。
「教職員の指導」に起因する疑いがある場合、学校側が関連性をなかなか認めない、あるいは隠す場合も考えられます。そうなれば、「自殺の背景」は「不明」になります。「不適切指導」に起因する場合、いじめとは違い、調査のシステムがありません。「不適切指導」が疑われる自殺と見なされて初めて、「指針」に基づく調査が行われます。
自殺未遂となった場合は、いじめが疑われれば重大事態として法律上の調査対象になります。しかし、不適切指導の場合は明示的な指針がなく、当事者・保護者と学校・教育委員会との間の話になります。
さまざまな課題を残しつつ、文科省で「指針」の見直し作業が行われています。