第8回 和解に使われた「生徒指導提要」

第8回 和解に使われた「生徒指導提要」
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 2012年10月29日午後7時20分ごろ、広島県東広島市内の公園で市立中2年の男子生徒(享年14)が見つかり、病院で死亡が確認されました。この問題を巡って、遺族は東広島市に対し、生徒が自殺したのは教師の不適切な指導が原因であるとして損害賠償を求めました。そして23年3月3日、「威圧的指導」や「暴力的指導」が認められ、広島地裁で和解が成立しました。

 学校は生徒指導のモデル校であり、「生徒指導規定」がありました。指導は第3段階まであり、第1段階では本人への説諭を通じて反省を促す、第2段階では保護者との面談を行う、第3段階では学校からの懲戒として別室で個別指導が行われるというものです。こうした厳しい生徒指導は「ゼロトレランス(不寛容)」と呼ばれ、 07年ごろから導入している学校がありました。

 生徒は1年生の時の11年11月4日、教諭への暴言を書いたとして、いきなり第3段階の特別指導の対象になりました。総合的な学習の時間に「最近、カメムシが増えて洗濯物につく」「ぶっ殺す」などとワークシートに書いていたのです。これが名前に「亀」が付く教師に向けた暴言と判断されました。友達と話していて書いたものでしたが、この生徒だけが指導の対象になりました。事実確認は7時間にも及び、事実確認がなされ、特別な指導の期間6日間、反省文は10枚以上書かされました。

 その後、12年10月5日、文化祭に関連した掃除をしていたところ、その際に笑い声がしたという理由で、隣のクラスの担任Aの指導対象になりました。指導後、生徒はA教諭の言動にいら立ってほうきを壊してしまい、ロッカーに隠しました。後にそれが発覚し、母親と謝罪しています。後日、「自分を振り返るのは必要」として、相談室で反省文を書きました。半日間、一人で放置されました。保護者に連絡はありませんでした。

 また、生徒は野球チームのエースとして背番号「1」を背負うはずでした。しかし、受け取ったのは「18」。部員17人しかいない中で屈辱だったに違いないと、筆者は思います。

 自殺当日、生徒は友人とカボチャで遊んでいました。A教諭が美術の授業で使うカボチャが廊下の真ん中に置かれているのを見つけたのです。これを理由に指導が始まり、担任と所属する野球部の顧問、コーチにも連絡があり、部活動中にも指導を受けたのです。その帰り道、生徒は自殺しました。

 裁判の和解内容は、①恥をかかせるようなものがあったこと②大声を出すなどの威圧的なものがあったこと③厳しい別の教諭に伝えておくと告げるなど脅迫的なものがあったこと――など一定の事実を認め、事後対応を含めて謝罪するというものです。裁判所は、協議の中で「生徒指導提要(改訂版)」を重視したと言います。「生徒指導提要」の改訂が現実に生かされたのです。

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