GIGAスクール構想により学習面でのデジタル活用が大きく前進する一方、全国で後れをとっているのが校務のDXだ。全国の公立小中学校などの自己点検結果によると、効果を実感しているのは「保護者との連絡手段」などにとどまり、DXと呼ぶには程遠い。そんな中、東京都練馬区立豊玉小学校では週案簿をクラウドに集約し、業務の可視化を実行。教務主任を務める鈴木智裕主幹教諭を中心に働き方改革を推進している。職員間の情報共有システムを構築しようと思ったきっかけを聞いた。(全3回)
――豊玉小の校務DXは現在、どこまで進んでいますか。
専科も含めた全職員の週ごとの指導計画である「週案」を完全にデジタル化し、共同編集するところまできました。グーグル・ワークスペース・フォー・エデュケーションのスプレッドシートを使い、職員が週案に単元や活動内容を打ち込むと、全てのアカウントにリアルタイムで入力内容が自動更新されます。
私は教務主任なので学校行事のシートを作成、体育館や理科室などの特別教室の使用状況も一覧にしています。また、関数を使って年間の指導時数を自動計算できるようにしました。こうすることで、何か変更があっても1回入力するだけで全員に共有され、連絡や調整がしやすくなったのです。これが本校の校務DXの一番のポイントです。あとは職員室や各教室に大型のディスプレーを設置して、全体で見られるように出力しています。
――週案簿をクラウド化するというのは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか。
GIGAスクール構想です。週案のデジタル化自体は以前からやっていました。私が教員になった20年くらい前から、週案を紙からパソコンで作成する人が増えてきて、授業時数の自動計算などのメリットがあるのを知っていました。前任校時代に1人1台タブレットが導入され、クラウドにデータを預けておけるグーグルベースで仕事した方がいいと思い、まず個人でスプレッドシートを使い始めました。
すると、若い先生方と「みんなで打ち込んでいった方がいい」という話になりました。そのやり方を、若手教員が広めてくれたというのが始まりです。私は少し表計算の関数についての知識があったので、一人の技術者のような立場で先生方の意見を集めながら、便利な機能を付け足していきました。今の学校に移ってからはその時の経験を生かして、校務DXを進めてきました。今はずいぶん進化して、見た目も見やすい色分けになったり、行事の計算もしやすくなったりしています。
――週案簿のデジタル化のメリットはどんなところにありますか。
2つ、良いところがあります。1つは週案作成の効率が良くなることです。特に専科の週案を担任の週案と合体させる手間が省けます。専科の先生が自分の週案を作成すれば、該当する学年の担任の週案に自動的に流れ込んでくる仕組みになっています。担任は図工や音楽などの専科の時間は空白にしておいて構わないわけです。各自が自分の持ちコマで何をするかを入力すれば自動で週案が出来上がり、週末になれば「来週は、この時間に何をするか」が、担任も専科もすぐに把握できます。
もう1つは同じ学年の、隣のクラスが何をやっているのかが分かるということです。これが思いのほか良いと感じています。私は6年2組の担任なのですが、1組がこの日の同じ時間に何をしているのかが一目で把握できます。すると授業の進度などで、学年としての動きが合わせやすくなります。実際に使ってみると、この2つのメリットを先生方が理解してくれて、今では共同編集するクラウド上の週案簿をメインに、全体が動いているといっても過言ではないと思います。
――これから、取り組めたらいいな、と思うとことはありますか。
本校だけでなく、区教育委員会も含めて働き方今後、働き方改革がさらに進んだときのために備えておきたいです。例えば、教員がタブレットを当たり前に持ち歩くようになれば、教員の家庭状況やそれぞれの生活に合わせてフレキシブルに仕事ができるようになります。ほとんど全ての仕事をクラウド化して働けるようになったときには、必要な機能も変わってくると思うので、そんな働き方の変化に対応できる準備です。
――校舎に入ると、大型のデジタルサイネージがありました。その日の行事予定や、子どもたちの様子などが表示されています。公立小学校では珍しいのではないでしょうか。
あれは、2024年の9月に導入した子ども用のデジタルサイネージです。玄関と児童の昇降口の2カ所に設置しています。今日の行事予定や各委員会からのお知らせ、校長の今週の一言や天気情報などを出力しています。
子どもたちは設置した当初からよく見ていて、特に6年生は自分たちが委員会で伝えたいことを発信しやすくなりました。委員会のポスターなどは紙で作り、それを撮影した画像をアップロードして表示しているだけなのですが、あの画面の力というのは大きいですね。子どもたちはとても張り合いがあるようで、頑張って作るようになりました。
本校は校務改善を中心にDXを進めてきましたが、いよいよ子どもたちにわれわれが培ってきた技術を広めていこうという段階に来ています。その第1弾が今説明した子ども用のサイネージで、仕組みは職員が校務で使用しているものと全く同じなのです。子どもが載せたい内容を教員とデータ共有し、それをアップするだけの仕組みになっています。ここから先は、子どもたちと一緒に活用方法を考えていきたいですね。
【プロフィール】
鈴木智裕(すずき・ともひろ) 長野県出身。東京学芸大学大学院を修了後、東京都の教員採用試験に合格。2012年から主幹教諭。現在の練馬区立豊玉小学校が4校目となる。前任校の関町北小学校時代に、GIGAスクール環境のもとで校務DXに着手。現任校でもその経験を生かして校務改善を続けている。