ギフテッド教育はエリート教育、早期教育のイメージが強いようで、「ギフテッド教育は格差を広げるので必要ない」という声を聞きます。また、優れた人材だけを大切に育てようとする優生思想の教育ではないかという批判も聞きます。
実際に、ギフテッド教育が「失敗した」という例は日本にもアメリカにもあります。その理由の多くは、「プログラムを受けた生徒にエリート意識が育ってしまった」「地域の学歴競争をあおってしまった」「ギフテッドプログラムの受講者が人種的・経済的に特権のある層に偏ってしまった」などです。
「ギフテッドの親は高学歴で裕福だから困り事はないだろう」と考える方も多いようですが、本当にそうなのでしょうか。私はギフテッド児の保護者が多く集まる「ギフテッドを学ぶサロン」を運営していますが、参加者のお子さんの多くは、小学校生活が苦痛で不登校になったと言います。ギフテッド児は、精神的な発達の仕方が通常とは異なるため、普通の子育て本が参考にならず、親も子育ての悩みを話せる人がいないと言います。
では、なぜギフテッド児は学校になじみにくいのでしょうか。そもそも、学校のカリキュラムは、IQが中間層の子どもたち向けに作られています。日本では、IQのカーブの下方にはみ出した子どもたちには特別支援教育が用意されていますが、上方にはみ出したギフテッド児には支援がない状況です。また、ギフテッド児には、批判的思考力や激しさ(過度激動※1)など独特の特性があると言われており、理解とサポートがないと、学校生活が難しくなってしまうのです。
これまで、各国でさまざまなギフテッド教育が行われてきた歴史がありますが、今のアメリカのギフテッド教育は、必ずしも「才能を育てる」という視点ではなく、放置しておけば学校生活に問題を来すと予測される子どもたちを支援するという側面も大きく、実際にいくつかの州では、特別支援教育の法律の枠組みの中にギフテッド教育が入れられています。
加州オレンジ郡のギフテッド専門の公立小学校の元校長のシャロン・マエダ先生(※2)は「丁寧な制度づくりをすれば、より公平でインクルーシブなギフテッド教育が実現できる。ギフテッド教育は、優生思想に基づくものではなく、子どもたちのニーズに応える支援なのです」と言います。すでにアメリカの一部の公立学区では、これまでの失敗例を参考に、多様な人種、性、国籍、経済・家庭状況のギフテッド児を公平に支えるシステムを編み出しており、そのノウハウを今、私たちは教員研修という形で日本に伝えています。
※ 1 Over excitabilityの訳語で、ギフテッド児に見られる感覚の鋭さや感情や行動の激しさのこと
※ 2 シャロン・マエダ先生については前回の連載記事を参照のこと
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