第1回 「防災」と「探究」について語る前に

第1回 「防災」と「探究」について語る前に
【協賛企画】
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 今からちょうど100年前に始まって、現在に至るまで1世紀にわたり私たちの身の回りに存在し続けているものは何か。

 それは「放送」です。

 1925年3月、現在のNHKの源流である社団法人東京放送局が開局し、日本初のラジオの試験放送が行われました。ただ、それまで人々の周りに何のメディアもなかったわけではありません。本や新聞というメディアは既にあったわけです。例えば、現在放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう」は江戸時代の出版の話です。

 ではなぜ、江戸時代から豊かな出版文化が発達していた日本において、このタイミングで放送が始まったのでしょうか。

 「ラジオの技術が発達したから」というのは、確かに一つの答えです。ラジオに必要な無線の技術自体はその数十年前、電話はさらにそれ以前に技術的に確立・普及していました。そしてラジオは1920年前後から当時の先進国で広がってきていて、日本にもいつ来るかという前提条件はありました。

 でも、ちょっと待ってください。技術があれば人は皆、その技術を使う。社会に広がる。そう言い切ってよいのでしょうか。

 そんなことはありません。既に電話や無線があって、本や新聞もある。それだけで大方の人は不便をしません。実際に第二次世界大戦後の1940年代から50年代になってから、ラジオ放送網を整備した国も数多くあります。

 ではなぜ、日本で1925年に「放送」というメディアが始まることになったのか。

 そこには「災害」がありました。

◇ ◇ ◇

 これから「中高生の力でアップデートする 防災教育×探究学習」というテーマで連載をしていきます。

 「防災」「探究」。それは大事なキーワードだと多くの中等教育の関係者が認識していると思います。でも、人によって捉え方やかける熱意にばらつきがあるようにも思います。私は中等教育の専門家ではありません。ただ、災害やフィールドワークの専門家として、また高等教育でいうところの「研究」をいかに進めるかというノウハウを持った教育者として、これまで中高生の防災教育や探究学習の一端に関わる機会を数多くいただいてきました。

 本連載ではそうした視点から、「もっと防災とか探究を教育に取り入れたらいいんじゃないか」「こんな切り口もあるよ」といったヒントになるような話をしてまいりたいと思います。

 

【プロフィール】

開沼博(かいぬま・ひろし) 1984年福島県生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。著書に『日本の盲点』(PHP研究所)、『はじめての福島学』(イースト・プレス)、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)など。10年にわたりNHK福島放送局の夕方ラジオ番組にレギュラー出演。学術誌の他、新聞・雑誌などにルポ・評論・書評などを執筆。

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