「研究としての探究を進める」と「中高生の等身大の関心から積み上げて問いを定める」。この2つが、防災という教材で探究をアップデートするコツです。
まず「研究としての探究を進める」ですが、私はこれを「研究型探究」と呼んでいます。
そもそも研究とは何か。大学の研究者同士であれば、おおむね文理を問わずその答えは明確です。研究とは「先行研究を踏まえつつ、世界で初めての発見をする」営みです。
「勉強」や「調べ学習」と対比させて考えると分かりやすいでしょう。勉強は、既にある知の体系を自分の中にインストールする営みです。だから、勉強(=人類にとって既知のことを身に付けること)と研究とは違います。当然、教科書・参考書にある既知のことを身に付けること(勉強)は前提としつつも、その上で教科書・参考書にはない人類にとって未知のことを書き足す。これが研究です。
「調べ学習」についてはどうでしょうか。例えば、中高の先生から「探究の時間でいろいろと工夫しているんですが、どうしても調べ学習の水準で終ってしまうんですよね」という悩みを聞きます。恐らく、この悩みを持つ先生には「小学生からやっている何かの切り貼りの『調べ学習』は『探究』とは違う。そこで求められているもっと理想の何かにはまだ至れていない」という高い志があるようにも思います。これもまた既知と未知の問題、つまり既知のことを調べて終っていて、人類にとって未知のことを発見するまでには至っていないという問題です。もし、この悩みを乗り越えられたかもしれないと感じたとき、そこには恐らく「人類にとって未知のことに触れた発見ができた」という実感があるはずです。
研究型探究とは、この「勉強」や「調べ学習」を超越した、人類にとっての新発見をするということなのです。
そう言われると、とんでもないハードルの高さを感じるかもしれませんが、大丈夫です。例えば、私が福島県の東日本大震災・原子力災害伝承館という施設を拠点に実施している「福島学カレッジ」という研究実践プログラムでは、15人の参加者のうち6人がプロ研究者に交ざって自分の研究を学会で発表するまでに至りました。そのうち2人は中学生です。また、東京都荒川区の公立中学校と協力し、防災をテーマに日本災害情報学会で中学生が発表するということも実現しました。
なぜそれができたのか。もちろん、生徒たちの意欲と努力が一番ですが、中高生が自分の立ち位置を生かしたこと、つまり中高生の等身大の関心から積み上げて問いを定めたことが背景にあります。私が探究に関わる際には、常にそのことを意識してきました。