第9回 自分の立ち位置を生かす

第9回 自分の立ち位置を生かす
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 なぜ、学会発表なんていう難しそうなことを、中高生がプロ研究者に交ざってできたのか。研究とは「先行研究を踏まえつつ、世界で初めての発見をする」営みです。そして、研究型探究を実践するためのポイントは、自分の立ち位置を生かすということです。例えば、京都教育大学附属京都小中学校は毎年度、探究学習の中で、希望者が福島県を訪問しています。この学校から昨年度、「福島学カレッジ」という研究実践プログラムに参加した中学生は、研究の問いを考えるワークショップの中で「自分は家で保護犬を飼っている。災害時にペットがどうなるか研究できないか」と言ってきました。こちらでもサポートしながら「ペット同伴避難」について調べると、ペットと防災について行政やNPOが一定の言及や活動をしているものの、先行研究がほとんどないことが分かりました。

 東日本大震災・福島第一原発の際に、大量の避難者が出て社会が混乱したことを大人は知っています。そこで災害関連死と呼ばれる、避難の途中・継続で大量の死者が出たことも聞いたことがある人は多いでしょう。そこでなされた研究としては、例えば「要支援者」である高齢者や障がい者の避難の問題で、それは一定の研究の蓄積がありました。でも、ペット同伴による避難は盲点でした。

 そこでこれを深堀りしようと、実際にペット同伴で避難をした人にインタビューを重ねました。すると分かったのは、避難所にはペットを入れられないから、多くのお年寄りが屋外や下駄箱で凍えながらペットを抱えていたこと、ペットフードも店からなくなり食べ物に困ったこと、避難所の後に行く借り上げ住宅の中でペット可のところは極めて少ないこと、津波映像などニュースを見るとペットがおびえるなどペットにも被災時のPTSDと言える症状が出ていたことなどでした。こうした内容を学会発表すると、「なるほど、そうであれば、次の災害時にペット同伴避難が予想される人はこう備えるべきなんだ」と、災害研究のプロたちは唸りました。

 こうしたことから言えることが2点あります。一つは、足元にこそ「世界で初めての発見」があるということです。社会的なこととかけ離れた理系の研究者と話をしていても、意外と同じ見解を持つ人は多いものです。自分の日常生活の中での不足や不安にこそ問いがあり、自分の実感がこもっている方がよいのです。つまり、自分の立ち位置を生かせるほど良い問いになります。

 もう一つは、災害というのが、誰にとっても想定外のことだらけであるということです。日本は災害が多い国だと言われます。実際に災害研究の世界最先端がここにあります。でも、分からないことが多い。だからこそ、中高生でも新発見をする余地が大いにあるのです。何なら閣僚が驚いて話を聞かせてほしいと問い合わせてきたこともあったほどです。

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