1年ほど前、復興庁から「副大臣が話を聞きたがっている」と連絡がありました。成城学園の高校生と私が実施し、学会発表した共同研究の内容が新聞に取り上げられたのを見たとのことでした。
この研究は「災害記憶消滅世代認識調査」と銘打って東京と福島の高校生を対象に実施したアンケート調査に基づくものでした。今の高校生は東日本大震災・福島第一原発事故があった2011年3月には未就学児で、まだ十分に物心がついていません。それより上の世代は「3.11」の衝撃を受けています。ここに認識の溝があるのではないかと考え、調査をしたわけです。
結果はなかなか衝撃的でした。例えば、「◯◯電力福島第一原発。◯◯に入るのは何?」と高校生に聞くと、東京近郊の高校生も福島の高校生も、半数が「東北電力」「福島電力」などと間違っていたのです。つまり、14年前の災害も、その実体験を持たない者には「歴史の中の1エピソード」に過ぎないのです。
なぜ、この研究を始めたのか。その高校生と出会った時、なぜ「3.11」に興味を持ったのかと聞くと「自分はたまたま関心があっていろいろ調べて知っているが、友人たちがあまりにも知らないから」と答えました。興味がない周囲とそうではない自分との間の温度差を感じ、ここに問いが生まれたわけです。
「推し活」という言葉があります。自分だけが他の人よりも強い関心を寄せて「推し」ている何かがある。なぜ自分が「推す」ものを他人はそうしないのか。こういう問いなら中高生でも深められます。そして、災害にひも付けることも意外と簡単にできます。
例えば、私の指導する大学院生が、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」が好きで、「ももクロ推し」について研究していますが、ももクロも災害に深く関わっています。例えば、被災地ライブを積極的にしたり、妹分のグループが被災地支援の文脈の中で生まれたりしています。「アイドルと被災地」、そんな研究であれば中高生でも十分に扱えますし、関心を持てます。そして「世界で初めての発見=研究」ができる。視点の取り方次第で、本当の意味での「主体的・対話的で深い学び」は誰にでもできるようになるのです。
本連載では防災をテーマにすることで探究学習をアップデートできるのではないかという話をしてきました。足元には(勉強や調べ学習にとどまらない)研究レベルの探究=「研究型探究」の種がゴロゴロと転がっています。そして、防災にひも付けることで中高生でも価値ある未知の問いに強い興味と意欲を持ちながら向かえます。この感覚の中で、探究をアップデートさせることができます。
東京大学大学院開沼博研究室では探究学習の研究も進めています。もっと具体的に知りたい、大学と一緒に実践をしてみたいということがあれば、いつでも気軽にご連絡ください。(おわり)