学校現場において、教職員の「子どものために」という強い思いが、時に組織全体のリスクとなることがあります。特にトラブル発生時、個々の教員が自らの正義感に基づいて動いた結果、対応の一貫性が失われたり、学校の立場が不安定になったりすることが少なくありません。
いじめや不適切指導の訴えがあった場面で、当該教員が「自分は正しい」と強く主張し、保護者と直接交渉を試みる。あるいは、管理職の方針に納得できず、独自対応を貫いた結果、組織が分裂してしまう。いずれも、「正しさ」が逆効果となってしまう典型です。
ここで重要なのは、個人の正義感と組織としての正当性は一致しないことを理解することです。教職員の主観的な正しさと、社会的な説明責任としての「学校の判断」は異なる軸で動いています。そのため、自分の行動が「組織全体にどう影響するか」を常に意識する必要があります。
また、強い正義感の背景には、過去の経験や感情が影響していることもあります。「自分が守られなかったから、子どもを守りたい」という思いは崇高ですが、冷静な判断を妨げる場合もあります。視野が狭くなり、対話が拒絶されると、問題が深刻化していきます。
このときに問われるのは、教職員一人一人の「感情のコントロール」です。自分の感情よりも、組織としての目的や子どもたち全体の利益を優先する判断ができるか。これができなければ、いずれ体罰や暴言など、指導の枠を逸脱したトラブルにもつながりかねません。感情の扱い方こそが、リスクマネジメントの基盤なのです。
さらに、SNSやメディアを通じて外部に訴えることのリスクも軽視できません。内部で調整し切れないまま発信すれば、学校全体が批判の対象になる恐れがあります。信念を持つことは大切ですが、公教育の場である以上、「公」の視点を忘れてはなりません。
私たちが現場で伝えているのは、「正義を振りかざすよりも、正しく引く勇気」の大切さです。言いたいことをあえて抑え、共通の方針に従い、全体の安定に資する行動を選ぶ。それが教職員としての成熟であり、子どもたちに示すべき背中でもあります。
学校は個人の正義を実現する場ではなく、信頼と安定を支える公共の場です。正義感が裏目に出ないよう、全体最適の視点を持ち続けることが、教職員のリスクマネジメントにおいて欠かせない視点なのです。