2025年3月に厚労省が公表した23年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数は、22万5509件でこれまでの集計では最多となった。児童虐待は4つに区分されており心理的虐待が59.8%、身体的虐待が22.9%、ネグレクト(育児放棄)が16.2%、性的虐待が1.1%であった。
児童虐待の防止については、「児童虐待の防止等に関する法律」に定められているので内容を確認しておきたい。児童虐待の定義は第2条で定められている。身体的虐待とは、「児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」。性的虐待とは、「児童にわいせつな行為をすること又はわいせつな行為をさせること」を指す。ネグレクトとは、「児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること」を指す。心理的虐待とは、「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」を指す。
学校については、児童虐待の早期発見に努めること(努力義務)、職務で知り得た虐待を受けたと思われる児童に関する秘密を漏らしてならないとされている(義務)。また、児童虐待の予防・防止や虐待を受けた子供の保護・自立の支援に関して、関係機関への協力を行うこと(努力義務)、さらに、学校は児童福祉施設とともに、児童虐待の防止のための教育と啓発に努めることとされている(努力義務)。
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに都道府県の福祉事務所や児童相談所に通告しなければならない(義務)。その他、この法律には、通告又は送致を受けた場合の措置、保護者に対する出頭要求、立入調査等、臨検、捜索等に関する規定を定めている。児童虐待対応の全国共通ダイヤル189(いちはやく)が設けられている。
なお、21年に改正された民法では、それまでの親権者による懲戒権の規定を削除し、「体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」とした。
各学校では、早期発見と関係教職員のチームとしての対応が重要である。各教委では、児童虐待の早期発見に役立てるためのチェックシートなどを提供しているので確認しておきたい。着眼点は例えば、児童生徒の気になる行動、身なりや衛生状態、健康や体調、不安定な精神状態、児童生徒の保護者への態度などである。
学級担任として、児童生徒に気になる様子がうかがわれる場合は、記録に残すと同時に、学年主任や管理職、養護教諭などに連絡・相談し、対応を進める。管理職、養護教諭、学級担任、学年主任、生徒指導主事、スクールカウンセラーらが情報を共有、対応を検討して必要があれば、児童相談所に通告する。生命・身体の安全、危険性などが明らかな場合は、警察に通告する。学校では、家庭での虐待の確証を得にくいこと、保護者との関係悪化などを懸念しがちであることなどから通告に慎重になりがちであるが、最も大切なことは児童生徒の安全確保にあることを押さえておく。