SELは一つの授業を実践してすぐに効果が出るというものではありません。私たちは学校にご依頼をいただき、講演や研修に行かせていただきますが、これはあくまでスタートラインに立ったということです。
そこから、あらゆる教育活動において、そして保護者や地域も巻き込んで全方位的にSELに取り組んでいくことが重要なのです。例えば、学校では「自分の感情が大事」と伝えられていたのに、家庭では「気持ちなんてどうでもいいの!」と言われていたら、子どもは混乱します。
沖縄県のA高校の事例を紹介します。A高校は不本意入学者が多く、学びに前向きになれなかったり中途退学をしたりする生徒が多いという課題を抱えていました。人間関係に悩む生徒も多く、先生方はどのように解決に向けて歩みだせばよいか迷っていました。
そこで、まずは先生方へヒアリングをさせていただき、SEL導入の目的を「心理的安全性を高め、生徒が学校の教育活動へ前向きに取り組めるようになる」ことと据えました。SELは、教員向けと生徒向け双方で取り組みました。スタート時には、特に教員向けのアプローチを充実させました。(教員向け研修の重要性は第4回を参照)
生徒向けには、新入生オリエンテーションを開いて生徒同士の交流に注力し、SEL授業も実施しました。その間、学校のさまざまな場面でSELのアプローチを浸透させました。例えば、SEL担当の先生は「お酒の出ない飲み会をしよう」と音頭を取り、先生が任意で集まれる対話の場をつくり続けました。そこで先生方は弱音を吐き、次第に前向きなエネルギーを取り戻していきました。
また、音楽担当の先生が授業内で行っていた生徒向けのリフレクションが、SELの主旨に沿った取り組みであったことから、スキル面だけでなく「自分自身の内面的な気付き」にフォーカスを当てた振り返りを盛り込むこととなりました。
生徒の振り返りに、先生がコメントを入れてやりとりをしていくうちに、次第に深いリフレクションができるようになり、自分の考えや展望に気付き言語化する力が養われていきました。時には、生徒の悩みや素直な気持ちの吐露がなされることもあったといいます。生徒の変容を感じるとともに、先生からは生徒の多面的な理解につながったとのお話をいただきました。
日々の学級経営でも生徒の思いや感情を大切に扱っていきます。ある生徒から「クラスでビーチパーティーをしたい」と提案がなされ、みんなで実現できる方法を考え、実際に開催しました。
一つ一つは小さな実践のように感じるかもしれません。しかし、こうした日々の気付きと成長実感の積み重ねがソーシャルスキルとエモーショナルスキルを養っていきます。子どもを軸にしながら、学校・保護者・地域・行政が一体となってSELに取り組んでこそ、最大の効果を発揮していくことができるのです。