2019年に「SEE Learning/Social Emotional and Ethical Learning」という新たなプログラムが米国エモリー大学とダライ・ラマ トラスト財団の共同研究・開発によって生まれました。SELの進化系とも言えるこのプログラムは、「SEL2.0」とも呼ばれています。
私たちrokuyouも、このSEE Learningの枠組みを参考にし、学校現場に取り入れながら、先生方と一緒に日々学びを深めています。
SEE Learningでは、従来の「自己」と「他者」の領域に加え、新たに「社会システム」の視点が取り入れられました。第6・7回で紹介した「自分の内面に気付く力」が高まると、「社会の現象や課題がどのような構造で生まれているか」を理解する力も総じて向上するとされたのです。
この背景には、「システム思考」の考え方があります。例えば、私たちの感情は単独で生まれているわけではなく、周囲との関係性や経験、環境など、さまざまな要因が重なって生まれます。こうした相互作用のまとまりを「システム」と捉えます。
例えば、Aさんの一言でBさんが怒ってけんかになったとします。表面だけ見ていると、Aさんの言動に問題があったように見えるかもしれません。でも、その言葉の背景に、Aさんが積み重ねてきた経験や感情があったとしたらどうでしょうか。
例えば、「Bさんにずっとからかわれていた」「家庭でのストレスを誰にも話せず、ついBさんにぶつけてしまった」といったことが分かれば、単なる「加害と被害」ではなく、もっと複雑で立体的な構造が見えてきます。
このように出来事を「システム」として捉えることで、問題や出来事を構造的に把握できます。システムを捉える力が高まると、社会の中で起きている課題や対立の構造を読み解くことができるようになります。
「自分」「他者」「社会システム」を対象に、「気付く」「コンパッション(叡智ある思いやり/共感)」「エンゲージメント(関係性を育むためのアクション)」の能力を発揮していくのがSELです。
図の左端の縦の列では、「気付く」対象が、「自分」「他者」「社会システム」のそれぞれに存在することが示されています。「自分」に「気付く」力が高まれば、「自己認知力」が上がります。
このように、SELは決して「やさしさ」や「マナー」を育てるだけの取り組みではありません。自分と他者、そして社会との関係性を読み解き、よりよく関わろうとする力を地続きで育てていく教育なのです。
自分自身の内面や身近な人との関係性に目を向ける。それがやがて、社会を見つめ、行動する力へとつながっていきます。一人一人の気付きが、社会全体の変化のきっかけになる―。SELには、そんな希望が込められています。