いじめをはじめ不当な差別や暴力、生命の尊厳に関わる事件など、さまざまな人権問題が生じている今日、学校における人権教育の意義はますます重要となっている。学校における人権教育の推進に関する考え方や方針はどのようにまとめられているのであろうか。
人権教育および人権の啓発については、2000年の「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」でその基本的事項が定められている。人権教育とは「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」と定義されている。また、基本理念として「学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければならない」としている。
さらに、この法律に基づき政府は「人権教育・啓発に関する基本計画」を02年に策定している。学校教育に関わる施策として、(1)学校における効果的な教育実践や学習教材などについて情報収集や調査研究を行い、その成果を学校などに提供していくこと(2)社会性や豊かな人間性をはぐくむため多様な体験活動の機会を図ること(3)各学校が人権に配慮した教育指導や学校運営に努めること――としている。(1)は教育実践の充実であり、(2)は多様な体験活動の充実、(3)は特に学校運営面からの人権尊重教育である。
この基本計画では、人権に関わる課題として、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者・ハンセン病患者、刑を終えて出所した人、犯罪被害者など、インターネットによる人権侵害、北朝鮮当局による拉致問題などを挙げている。
人権教育の指導方法については、文部科学省が08年に示した「人権教育の指導方法等の在り方について[第三次とりまとめ]」が、各教育委員会や各学校における指導の手掛かりとされているので参照しておきたい。
[第三次とりまとめ]では、人権教育を通じて培われる資質・能力を、(1)知識的側面(2)価値的・態度的側面(3)技能的側面――から捉えている。(1)は、自由、責任、正義、平和、尊厳、権利、義務などの概念の理解、人権の発展や人権侵害などに関する歴史や現状についての知識、日本国憲法や人権関連の法令、条約などについての知識などのことを指す。(2)は人間の尊厳や自他の価値を感知・尊重できる感覚、多様性に対する開かれた心と態度などのことである。(3)は互いの相違を認め受容できるための技能、傾聴や適切な自己表現を可能とするコミュニケーション技能などである。
また、人権教育の目標を分かりやすく「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」としている。この目標を実現するためには、「学習活動づくり」や「人間関係づくり」「環境づくり」が一体となった学校全体としての取り組みが望まれる、としている。各学校において人権教育を計画的に取り組む際には、以上のような人権教育の目標、各学校の重点課題を設定し、人権教育で身に付ける資質・能力の3つの側面を教育課程のどの内容・活動を通じて実現していくのか明確にしておくことが必要である。