第2回 予防策を考える

第2回 予防策を考える
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「緩んでいくように見える」のは、新しい環境への適応

 「地が出る」という言葉があります。この6月ごろによく聞く言葉です。

 表向きの顔と、地の顔。幼く天真らんまんにみえる子どもたちだって、場によって違った顔をもっています。「裏表」がないという言葉が褒め言葉になるくらいですから、「表向き」というと何だかずる賢いような印象を持ってしまいますが、決してそれだけではありません。新しい学年、新しいメンバー、新しい先生とともにスタートした1カ月をいつも以上に頑張った。そんな真剣な「表向き」もたくさんあることでしょう。

 しかし、表向きでいることは結構疲れます。だから「五月病」なんていう言葉があるのでしょう。大人だって同じで、4月の間はぴかぴかだった私の教卓も、5月を迎えたあたりからだんだんと様相が変わってきます……。

 そう考えていくと、6月に学級が「緩んでいくようにみえる」現象は、子どもたちが新しい環境に適応していく過程の一つであるように思えてきます。学級生活を無理なく過ごしていく形を必死に模索している、とも言えるでしょう。

 しかし、そこに「締め直し」が入る。「もう大丈夫かな」と置きかけたお面を、もう一度着けるよう、げきが飛ぶわけです。なんだか疲れたなと外を見ても、どんよりとした雲が明るい日差しを閉ざしている。「これではやっていけない」という思いが、とげとげとした言葉や行動、失われた気力として表出してきます。中には、その場に来ることすら難しくなってしまう子もいるでしょう。そんな大きな変化がなかった場合でも、一人一人が持っているネガティブな感情が合わさると、何となく学級の雰囲気が重たく感じられる。

 学級は頑張る場所かもしれませんが、頑張らなければいられない場所ではありません。ですから、教師がイメージする一日の中に、体調が少しすぐれない人や、何だか気分が乗らない人の居場所があるか。そして、そんな子どもたちへのケア機能が学級にあるか。そんなことが大切になってきます。

 「これ簡単」「おい早くしろって」「こんなのできない人いるの?」なんていう、誰かを置いていく声ではなく「大丈夫?」「○○できそう?」「ほら、頑張ろう」、そんな誰かの弱さに寄り添う声が学級の中で聞こえてくること。困っているとき、どうしていいか分からないときに手を差し伸べてくれる人が一人でもいること。そんな温かさが一人一人の頑張りを持続可能にしてくれます。

 なんだか元気がない体育の授業で元気に掛け声をかけている子。みんなのやる気が向かない時間に「やるか~!」と明るく言ってくれる子。休んでいる児童の机を、黙って運んでくれる子。そんな子どもたちに感謝の声を伝えるだけでも大きな違いがあります。互いの良いところを発見して伝え合うようなシステムも効果的でしょう。大切なのは、温かな火がじめじめとした空気に負けて消えないように、まきを絶やさずにくべ続けることです。

学級が大きく進む活動を配置する

 そして、学級の子どもたちが向かう先を常に用意しておくことです。

 行き場を失った水が濁っていくのと同じように、学級もどこかに向かっていないと必ず濁っていきます。ですから、子どもたちが何かに向かえているか、ということを一年中、考え続けるようにしています。

 自主的な宿題、係活動、クラスでのチャレンジ。やり方はいくらでもあります。班で何かを発表しなくてはいけない。体育のリレーが楽しみで仕方ない。そんな日常的なものでも構いません。とにかく、子どもたちがどこかに向かえていればいい。

 私の場合、4月の1週目から学級を開いて、授業が本格的に始まって、係や委員会が動き出して、小テストが始まり、連休を挟んで、遠足。学級会がスタートして、学級目標ができて……と向かい先を考えていくと、だいたい6月には学級目標の掲示物をみんなでつくっています。向かい先が見つかりにくい連休後から6月にかけては、学級が大きく進む活動を配置するようにしています。

 ですから「行事がない時はどうしようか」というよりも「この先に行事があるから、今はそれに向かえるようにすれば大丈夫か」という感覚です。常に学級がどこかに向かうことができているように、子どもたちが何かしらの充実感を得ることができるように、と心掛けるようにしています。

 「魔の6月」の予兆はさまざまな形で表れてきます。4月から頑張ってきた子どもたちですから、どこかで気が抜けてしまうのは不自然なことではありません。しかし、一年間の学級経営は長い道のりです。ですからこの時期に大切なのは、無理せずに頑張っていられるような形を見つけていくことなのかもしれません。無理をしないでいられる学級の中で、子どもたちが何かに向かうことができていること。少し抽象的かもしれませんが、それが私の考える一番の予防策です。

 しかし、それでも危機的な状況が起こってしまうことがある。出てきた「地」にネガティブな内容がたくさん含まれてしまっていることもあり得るでしょう。最終回は、そんな不適切な言動、行動、学級の荒れが起こってしまった時にどのように対応していけばよいか、を考えていきたいと思います。

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