今夏も教採試験の本格的なシーズンとなった。直前対策として受験者が苦手意識を持つことの多い論作文、模擬授業、集団討論について、評価を上げるためのポイントを紹介する。頭に入れて置き、本番で活用してもらいたい。
■教育時事の理解をしっかりと
教育時事については、知っているかどうかということがまず必ず問われる。調査結果などの場合、細かい数字はともかくとして全体的な傾向や課題についてはしっかりと理解しておくことが大切だ。内容や背景だけではなく専門家の論評などにも代表的なものだけでよいから目を通しておきたい。識者はどうそれを捉えているか、またどのような課題や問題、疑問が持たれているか、といったような情報を押さえておく。
■自分なりの考えをまとめる
理解するといっても、ただ漫然と「そういうことか」といったような把握をするだけでは不十分だ。その課題について、論点を整理し、その課題について自分なりの考えを持つことが大切。論作文を書くときは、これまでの自分なりの体験、例えば教育実習や学校ボランティアなどの体験を踏まえ、その課題に対する自分なりの提言、自分が教師になったらこのような取り組みをしたいなどと具体策を述べる。
■読み手の心を動かすには
論作文のポイントとして実践をどれくらい持っているか、その実践を課題に合わせて的確に論述の中に効果的に取り入れられているかということがある。体験とその体験をどのように自分のものとして整理し蓄積しているかが鍵である。直前の対策として、しっかりと自分の体験をまとめておこう。
採点官は、課題の要因、背景などについては十分に理解している。読みたいのはどのように課題を受け止め、どのように対応していくかという点である。換言すれば、具体的な体験に基づかない論述は、採点官の心に響いてこないということだ。
■一貫した流れが重要
初めからまとめまで一貫した流れで表現されている論作文は、評価が高い。初めの主張が途中で消えてしまい、まとめでは初めの考えと異なった主張になってしまっているという逆のパターンの論作文が多いからだ。これを防ぐためには、課題を読んですぐに書き始めるのではなく、まずは全体の構想を練る。どのような内容で書き始めるか、主たる論述ではどのような具体的な活動や体験をどのような主張とともに表現していくか、まとめではどのように自分の意思や意欲、教職への熱い思いを伝えるか、という点について押さえておくことが必要である。
■熱い思いを伝えること
採点官の心を捉える論述に共通していることは、子どもたちへの思いや教育に対する熱い思いが語られており、加えてその思いが読み手に伝わってくるということである。文章のまとまりという側面も大切ではあるが、最も大切なのは教職への熱い思いがしっかりと表現されているということである。教職への熱い思いを表現するためには、論述の技術を身に付けるとともに内面的な心の在り方が重要なポイントとなる。留意したいことは、文末の表現に気を付けることだ。「……と思われる」「……であると考えられる」という表現では思いは伝わってこない。「……に取り組みたい」という表現を用いて思いをしっかりと表現し自信をもって熱い思いを伝えていくことが大切である。
■ぜひ、第一声を発しよう
集団討論で面接官が見る大きなポイントが積極性、意欲である。討論がスタートした瞬間、多くの場合、一瞬の間があくものである。他の受験者の出方を見たり、様子をうかがったりしてしまうからだ。ぜひ最初に発言しよう。最初に発言した、という事実はその討論における自分のポジションを大きなものにするし、面接官に対する印象も違う。「自分は引っ込み思案だから」という人は、逆に必ず最初に発言したい。一度発言すれば、踏ん切りがついて後の発言が楽になる。
■テーマが得意分野でなかったら
教員採用試験なので教育に関するテーマであることは間違いないが、内容について詳しく知らないことはあるだろう。すると「話す内容がない」と焦ってしまう。
面接官が見ているのはテーマについての知識の有無ではない。もちろん発言内容も評価対象にはなるが、それは単に知識を有しているということである。むしろ、討論にどのように参加したかという態度を見ている。知識はなくてもテーマにつき一生懸命考え、積極的に討論に参加している様子が伝われば大丈夫、評価は低くない。
具体的には司会に立候補するという手がある。知識がなければ、討論全体をリードすればよい。発言としては、他者の発言に付け加えをしていくというやり方がある。例えば、これはいい意見だなと思う発言があったら、それを評価し、さらに自分の考えを付け加えて意見を発展させるというやり方である。他者の発言をよく聞いて、頭の中で整理して、要所要所で討論の要点をまとめてみせるというというのも有効である。
■どうしても議論が苦手なら
集団討論で高い評価を得るのは、話し上手でなければならないということはない。とにかく討論に参加し、討論の活性化、成功に貢献するという態度を見せることだ。
聞き上手であることを示そう。他者が発言中は、そちらを向き、しっかりと聞いているという態度を示す。相づちを打つとなおさらよい。自分が発言する時が来たら、他者の意見を適宜引用し、きちんと聞いていることを示したい。他者の意見はできるだけ褒め、自分に対して反論されたら、笑顔で聞いて直接的には反論しない。まとめ役を務めるのもよい。要所要所で全体の発言を整理して、まとめとして発表する。加えて他の受験者に適宜質問ができるとよいだろう。
■目立たなくてはいけないのか
面接官の印象に残る必要があるから、その意味では目立たなくてはいけないだろう。しかし、避けたい目立ち方、マイナスになる目立ち方があることも知っておこう。
いうまでもなく、「自分の意見ばかり主張する」「反対意見にはむきになって反論する」「他者の意見に配慮しない」「攻撃的に論戦する」などは避けたい目立ち方だ。
面接官から低い評価をされる目立ち方は、それまでの討論にはほとんど参加せず、まとめの段階になったら、突然自分の意見を強調し、それまでの流れを無視するように討論のまとめを自分の主張に沿ったものにしようとするやり方である。討論には最初から参加し、意見の集約に協力するという態度が重要なのである。
一方、討論の軌道修正ができる、というのはよい目立ち方だ。討論はえてして本筋から外れることがある。その時に、討論を元に戻す発言ができれば、評価が高い。強引でなく自然にできれば、なおさらよい。
■まともに参加できなかったらどうするか
討論の時間もそろそろ終わり。しかし、これまでほとんど発言できず、討論の流れにもまったく乗ることができなかった。司会、タイムキーパーなどの役割もしておらず、自分の存在感はまったく示すことができていない。このままでは不合格必至。起死回生のため何ができるであろうか。
討論には、やはり当初から参加することが求められるので、残念ながらその時点からできることは少ない。スタート時から積極性を示すことが大切なのだ。ただ、もし他の受験者の意見をきちんと聞いていたのであれば、次の2つのことができるだろう。
何人かの意見を取り上げ、その優れた点を指摘し、自分も同じように思うことを強調する。意見をきちんと聞いていたことを示せるだろう。
もう一つは、その場で最も軸になっていそうな受験者の意見に、突然反対を表明するのである。そして、他の受験生からも意見を求める。あえて波風を立たすということだ。おそらく非難の的になってしまうかもしれない。しかし短時間ではあるが、討論を自分の方にもってくることができる。他から何をいわれてもどうどうと反論できるということが条件。面接官が見直してくれるかもしれない。
あまりお勧めではないが、このまま何もしなければ落ちてしまうと思うのであれば、やってみる価値がある。
■実施形態をきちんと知る
簡単にいうと模擬授業とは、実際に教壇に立ったと想定しての授業シミュレーションである。 実施形態は自治体によって異なるが、一般的には会場には教壇と黒板が用意され、児童生徒が目の前にいると想定して行われる。会場には面接官だけの場合、他の受験生が児童生徒役として5~10人程度座っていて交代で授業を行う場合とがある。時間は、1人当たり5~10分程度。教科指導だけではなく、生活指導関係のテーマが与えられることもある。
■児童生徒とのやりとりを積極的に
模擬授業の主なポイントを次に挙げておく。
▽明るく、大きな声で演技する。
▽黒板は必ず使う。課題が分かっている場合は、あらかじめ板書計画を立てておく。
▽用意されているチョークは、できるだけ多くの色を使って効果的な板書を心掛ける。
▽図や絵などを描いてみせると効果的。
▽学年配当漢字を確認しておく。その学年では習っていない漢字は使わない。
▽児童生徒が目の前にいるつもりで、声を掛け、発問し、指名し、答えを聞き、それに反応し、褒めたりする。
▽与えられた課題にきちんと応える。前置きが長くなって、課題に触れる時間が少なくならないように注意する。
▽児童生徒役の他の受験生がいる場合はなるべく指名する。自分が児童生徒役の場合、指名されたらきちんと答える。
▽ネガティブな言葉は使わないように注意。
▽制限時間を守る。終了を告げられたら途中でも「これで終了します。ありがとうございました」といってから終了する。
1人あたりの時間は短いので要点を押さえて手短に要領よく展開する。児童生徒とのやりとりを積極的に行うことが大切。発問に引き続き、「Aさんはどう考えますか」と問い掛け、「よく考えてますね」などと振る舞う。児童生徒役の面接官が質問してくる場合もある。ひるまずに児童生徒だと思って扱うとよい。