新しいことにネガティブな方は、いくつもの心配事を挙げ、それがいかに難しいことなのかを説明しようとします。私の場合も「何かあったらどうするんだ」「責任は取れるのか」「少しでも懸念事項があるなら無理に進めなくてもよいのではないか」といったことを投げ掛けられ続けました。
ICTを活用した校務のDXを進めようとするだけで、管理職の先生方の逆鱗(げきりん)に触れることになりました。それもあってか、当時は「管理職に盾突く人」として見られ、担任を任せてもらえなくなるという経験もしました。
私はこれらの経験を著書『学校DX物語』としてまとめる際、次のような教訓を得ました。
まず、学校DXには「人」の理解と協力が不可欠だということです。いくら優れたICT機器が導入されたとしても、それを使う教職員の理解がなければ宝の持ち腐れとなります。特に管理職の先生方の理解は、学校全体の方向性を決める上で極めて重要です。
次に、「小さな成功体験」の積み重ねが大切だということです。一気に大きな変革を求めるのではなく、まずは小さな範囲で成功事例をつくり、その効果を実感してもらうことが重要です。例えば、職員会議の資料をペーパーレス化したり、校内の連絡事項をチャットツールで共有したりと、教員の負担軽減につながる小さな改善から始めることで、徐々に理解者を増やしていきました。
また、「トップダウン」と「ボトムアップ」のバランスも重要です。管理職からの指示だけでは現場の創意工夫が生かされず、逆に現場からの提案だけでは組織的な動きになりにくいものがあります。両方のアプローチをうまく組み合わせることで、学校全体のDXが進むという気付きを得ました。
「GIGAスクール構想」がスタートした当初は、多くの学校が「マイナス地点」からのスタートでした。ICTに対する不安や抵抗感、従来の方法へのこだわりなど、さまざまな障壁がありました。しかし、コロナ禍という特異な状況がパラダイムシフトを促し、少しずつですが学校のDXが進むこととなりました。
あれから数年がたち、当時の苦労が今では懐かしく思えるほど、学校現場のICT環境は整備されてきました。しかし、真の意味での学校DXはまだ道半ばです。テクノロジーの導入だけでなく、教育の本質を見つめ直し、より良い学びの在り方を追求していくことが、これからの学校DXには求められているのです。
次回は、このような困難を乗り越えて、実際にどのような変化が生まれたのかについてお話しします。